- 2023年に全国で北海道や東北地方で相次いだ熊被害。各地で社会問題となったが、現役のマタギはその状況をある程度、予測していた。
- なぜ2023年は里に下りる熊が増加したのか。そして2024年の状況はどうなるのか。
- マタギを撮るためにマタギになった写真家が見た熊問題。
(船橋陽馬:写真家・マタギ)
2023年、熊による被害が大々的に報道され、毎日のようにどこかしらで人的被害が起こっていた。熊の捕獲頭数も国が統計を取り始めてから最多の9279頭に上り、中でも秋田県における熊の捕獲頭数は2183頭と、全国でも圧倒的に高い数値になっている。
私は2013年にマタギ発祥の地と言われる阿仁根子(あに・ねっこ)集落へ移住し、2014年から狩猟を始めた。本業である写真の被写体としてマタギを追いたいと思ったのがきっかけでこの土地へ移住し、マタギの皆さんと共に山に入り、伝統的な猟法である巻狩りに参加させてもらいながら、マタギとはなんなのかを経験を通し学んできた。
巻狩りとは、セコと呼ばれる熊を追う役、マチパと呼ばれる銃を持ち、セコが追って来た熊を射止める役、全体を見渡し指示を出すムカイマッテという役にそれぞれ別れ、昔から熊が良くいるとされるクラ(猟場)で行う集団猟である。
一般的に、マタギは「熊を追う人々」というイメージで捉えられがちだが、この11年という歳月の中で私が気付いたのは、「マタギ=暮らし」だということだ。
マタギが生業として成立していた時代、この土地の人々は、主に農業主体の暮らしをし、農閑期になると山へ熊を追いに行った。それでだけではなく、山菜やきのこも採れば、熊以外の野生鳥獣であるカモシカやウサギ、アナグマ、ヤマドリなども同様に獲っていた。
その中でも「熊の胆(い)」と呼ばれる熊の胆嚢は薬として重宝され、当時は金と同じ価格で取引されたと言われている。熊を獲り、薬として売り、この土地の基幹産業として少なくない収入を得ていた時代もあった。