閉鎖された羅臼岳登山道へ通じる道路(写真:共同通信社)
(内山岳志:北海道新聞記者)
今年、北海道では8月末までに3人がヒグマに襲われ、そのうち2人が亡くなるという悲惨な事故が起きました。全国でも69人がクマに襲われ、道内2人を含む計5人が亡くなっています。
道内の死亡事故は、北海道南部の福島町の住宅街で新聞配達中の男性が襲われたケースと、北海道の東の外れに位置する世界自然遺産知床の日本百名山の一つである羅臼岳で登山中の男性が襲われたケースです。
場所も遠く離れ、環境も街中と山中という対照的な2例ですが、この二つの事故には「危険な予兆」があったという共通点があり、避けられた可能性があります。その点を中心に事故を分析しました。
1例目は7月12日午前3時頃、新聞配達中の男性がヒグマに襲われました。辺りはグループホームや高校が建ち並ぶ福島町の住宅街で、悲鳴を聞いた近所の住民は、男性の腕をかんで藪に引きずり込むヒグマの姿を目撃しています。
2例目は8月14日午前11時ごろ、羅臼岳の斜里町側を下山中の男性がヒグマに襲われました。200メートルほど離れていた同行者が「助けて」と言う声を聞き、駆け付けたところヒグマが登山者の男性を引きずって行ってしまいました。
知床が2005年に世界自然遺産に登録されてから初めてのヒグマによる死亡事故に、地元では衝撃が走りました。
この2件の事故は、避けようのない突発的な事故ではありません。実はどちらのケースも事故の前に、「危険な予兆」がありました。それはどちらも数日前から、現場付近で目撃が相次いでおり、非常に危険なシグナルを発していたということです。ところが、このシグナルは見過ごされてしまいました。