なぜ今、改めて必要性が叫ばれるのか
旧スパイ防止法の廃案からおよそ40年。国際社会の環境は大きく変わりました。かつてのように、軍事力だけでなく、科学技術や通信、生産などあらゆる分野での安全保障が欠かせないものになっています。かつては報道機関もこぞって反対しましたが、現在ではスパイ防止法の必要性に理解を示すメディアも少なくありません。
一方、この間、国家機密を守るための法体制は徐々に整備されてきました。
特定秘密保護法(2013年)、サイバーセキュリティー基本法(2015年)、共謀罪(2017年)、経済安保法(2022年)、能動的サイバー防御法(2025年)などが該当します。それでもなお、「スパイ行為そのものを取り締まる法律がない」というのが現在の推進派の主張です。ただし、既存の法律で取り締まることができないものは何か、その詳細は明らかではありません。
こうした状況に対し、立憲民主党などの野党は反発を強めています。同党の本庄知史・政務調査会長は10月8日の記者会見で、スパイ防止法の摘発対象には日本人も含まれる恐れがあると指摘し、「重大な人権侵害を引き起こすリスクがある」と強調しました。
日本共産党の小池晃・書記局長も、同法は国民を監視する「現代の治安維持法」となり得ると指摘。「海外と戦争できる国に向かう動きの一つになる」と反対姿勢を鮮明にしています。
また、参政党の神谷宗幣代表が「極端な思想の公務員は辞めてもらわないといけない。これを洗い出すのがスパイ防止法だ」と発言したことに関連し、スパイ防止法は思想弾圧の道具になりかねないと懸念する声が広がっています。
法律は一度できたら簡単には廃止できないものです。高市内閣が進めようとする法案の具体的内容は明らかになっていませんが、法律は常に拡大解釈されるリスクもあります。それらを踏まえた慎重な議論が必要でしょう。
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。
