人質の解放を喜ぶイスラエルの人たち(写真:AP/アフロ)
米国などの仲介により、イスラエルとイスラム組織ハマスがパレスチナ自治区ガザでの停戦に合意し、双方の人質が解放されました。トランプ米大統領は、自らが主導した外交成果だとして「戦争は終わった」と胸を張りますが、この合意には米大統領の周辺や関係各国の粘り強い努力が強く影響しています。多くの関係者が動いたからこその結果です。「ガザ停戦合意」の舞台裏をやさしく解説します。
(西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス)
(この記事は日本時間10月15日午後11時までの情報に基づいています)
「人質はもはや資産ではなく負債」
「中東での合意が非常に近い」
トランプ大統領がガザ停戦合意成立の見通しを公表したのは、10月8日午後の米ホワイトハウスにおける会議の途中でした。同席していたルビオ国務長官から、大統領自身のSNSで発表してはどうかとメモを渡された直後です。
そのころ、エジプト東部のリゾート地シャルムエルシェイクでは、停戦を巡ってギリギリの交渉が続けられていました。
米ネットメディアのアクシオスによると、米国のウィトコフ中東担当特使とトランプ氏の娘婿クシュナー氏の2人が、カタールとトルコ、エジプトの仲介で、4人のハマス幹部と異例の直接会談に臨んだのです。ウィトコフ氏はトランプ氏に近いことで、クシュナー氏はイスラエルとアラブ諸国の関係正常化を図った2000年のアブラハム合意に関与したことで、それぞれ交渉相手から一定の信頼を得ていました。
約45分間の会談で、米側は「人質はもはやあなたたちにとって資産ではなく負債だ。家族の元に返す時ではないか」と停戦受け入れを迫ったといいます。ハマス側代表のハイヤ氏は「トランプ大統領からメッセージを預かっているか」と尋ね、米側は「ハマスを公平に扱う。大統領は自らが示した『20項目』の和平案に責任を持つ」と伝えました。
これを受け、ハマス側は上記3つの仲介国と協議の上、和平案受諾を決断しました。その結果が即座にワシントンのトランプ氏に伝えられたのです。
「20項目」とは、トランプ氏が9月下旬に示した包括的和平案のことです。
ガザでの戦争を即時終結し、イスラエルとハマス双方が拘束している人質や捕虜を全員帰還させることが盛り込まれています。イスラエル軍はガザから撤退する一方、ガザの統治は当面、党派性を持たない行政官が担い、国際的な「平和評議会」の監督下に置くという計画です。平和評議会の議長にはトランプ氏が就き、英国のブレア元首相も重要な役割を担うことになっています。
イスラエルとハマスは10月9日に停戦合意に署名し、イスラエル政府が翌10日に正式承認したことで合意は発効しました。戦闘は即時終結し、イスラエル軍は決められたラインまで撤退、ガザへの人道物資搬入が始まったのです。13日にはハマスが20人のイスラエル人人質を、イスラエルは約2000人のパレスチナ人収監者をそれぞれ解放しました。
トランプ氏はその13日、シャルムエルシェイクで開かれた関係国によるサミットに出席し、カタール、エジプト、トルコとともに共同声明を発表。「われわれは互いに尊重し運命を共にする理念に基づいて、この地域の平和、安全保障、繁栄に向けた包括的ビジョンを追求する」との決意を表明しました。