ハマスの武装解除やガザ統治など不透明な点も

 トランプ米大統領は「戦争終結」を強調していますが、停戦合意には不十分な点も指摘されています。

 一つはハマスの武装解除の方向性が明記されていないことです。

 イスラエルはガザの治安維持にハマスを関与させないことが重要との立場から、ハマスに武器の放棄を求めています。米国もハマスは武装解除すべきだとの考えです。しかし、ハマスはパレスチナ国家が正式に樹立されるまで武装を解く考えはないとしています。

 トランプ氏の和平案には、パレスチナの国家承認の道筋も示されていません。国連加盟国の大半はパレスチナを国家として認めており、9月の国連総会では英国やフランス、カナダなどが新たに承認しました。国家承認によってパレスチナ国家の位置付けを明確にする方が、ガザの戦後復興もより順調に進むと思われますが、イスラエルや米国はパレスチナの国家承認には反対の姿勢を崩していないのです。

 中長期的なガザ統治のあり方も課題です。

「平和評議会」という国際組織の構成もはっきりしません。トランプ氏に近いブレア元英首相が重要な役割を担うことになりそうですが、アラブ諸国には2000年代に米国とともにイラク戦争に参画したブレア氏への不信感も残っています。

 今回の戦争では、ガザで多くの命が失われ、飢餓も蔓延しました。国連の調査委員会はこの9月、イスラエルによる「ジェノサイド」にあたると認定しました。その責任の行方はどうなるのか、その点も明確ではありません。

 ガザ停戦合意は、いつ行き詰まるかわからない脆さを抱えたままです。そのうえで、関係する国々や勢力は、本格的な和平に向かわなければならないのです。

西村 卓也(にしむら・たくや)
フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。

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