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(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年9月13・14日付)

9月21日にアリゾナ州グランデールで催されたチャーリー・カーク追悼式典でカーク氏の妻エリカ・カーク氏を抱きしめるトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

 MAGA(米国を再び偉大に)運動の先駆者チャーリー・カーク氏が射殺された9月10日水曜日。

 この事件を受けた米連邦議会下院は、1分間の沈黙を維持することすらできなかった。

 マイク・ジョンソン議長が事件に思いをはせるよう求めた数秒後には、議場が怒号の飛び交う場所に変貌してしまった。

 まず、共和党のローレン・ボーバート議員(コロラド州)が「黙祷では黙して語らずになってしまう」と不満を漏らした。

 複数の民主党議員がこの妨害に抗議すると、共和党のアンナ・ポーリナ・ルナ議員(フロリダ州)が「あんたたちのせいだ。この○○女、責任を認めろ」と叫んだ。

 これに民主党のジャハナ・ヘイズ議員(コネチカット州)が反応した。「だったら銃規制法案を通せ」――。

政治的ないがみ合いの核心

 この言い争いから、米国での政治的ないがみ合いの核心が垣間見える。

 多才な保守系活動家で、昨年11月の選挙で多くの若い有権者を鼓舞して私への支持を取り付けてくれたとドナルド・トランプ大統領に言わしめたカーク氏の殺害はショッキングだったが、痛ましいほど意外感に乏しい事件でもあった。

 政治の無秩序を研究する専門家たちは、暴力的な言辞は現実の暴力を「正当化する構図」を作り出すと指摘している。

 米国政界における非難の品位の低下――少しずつ広がる政敵の人間性否定――は何年も前から激しくなる一方だ。

 それに歩調を合わせるかのように、連邦捜査局(FBI)が集計した殺害予告や暗殺未遂の件数も急増している。

 昨年にはトランプ氏も遊説中に暗殺されそうになった。

 もしあの銃弾が4分の1インチ左にそれていたら命はなかった。暗殺を試みた犯人には決定的な思想信条はなかった。

 2022年にはナンシー・ペロシ前下院議長(民主党)の80代の夫ポール氏が、自宅に侵入してきた右翼に襲われて頭蓋骨骨折の重傷を負った。

 2020年にはミシガン州のグレチェン・ウィットマー知事(民主党)の拉致を民兵組織のメンバー数人が企てた。

 また2022年には、保守派のブレット・カバノー連邦最高裁判事の暗殺を、人工妊娠中絶の権利を支持する武装した人物が計画した。

 そして今年6月には、ミネソタ州議会のメリッサ・ホートマン下院議長(民主党)とその夫がキリスト教ナショナリストに殺害された。

 最も広く知られているのは2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件だ。

 この時は暴徒がマイク・ペンス副大統領(共和党)とペロシ下院議長の命を狙った。

 これはジョー・バイデン氏が2020年の大統領選挙勝利の承認を阻止しようとした事件で、4人が死亡した。加えて、現場に居合わせた警察官ら数人が事件から数カ月の間に自殺した。

 1月6日のクーデター未遂は米国史においては特異な決裂の場面だった。

 だが、米国政治には単独で行動する暗殺者が常に存在する。これまでに4人の大統領が凶弾に倒れている――4人目は1963年に殺害されたジョン・F・ケネディ(JFK)だ。