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(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年9月6・7日付)

LeoによるPixabayからの画像

 ひとたび人工知能(AI)が本当に始動したら、経済はどれほど速く成長できるのか。

 年間5%か。年間10%か、それとも50%か。好きな数字を挙げたらいい。メディアに取り上げられたければ、大きな数字にするといいだろう。

 破壊的なイノベーションに特化した資産運用会社ARKインベストは、7%の実質国内総生産(GDP)成長率が妥当だと主張した。

 AIのトレンドに特化したシンクタンク、エポックAIは、一定の前提条件が満たされたら、成長率は年間20%を超える可能性さえあると示唆した。

 それ以外の評論家ははるかに保守的だ。

 例えば、ノーベル賞を受賞した経済学者のダロン・アセモグルは、今後数年間でAIが年間成長率を約0.1%押し上げるかもしれないと見ている。

 あれば嬉しい上振れだが、必ずしも気づくほど嬉しいものではない。

経済が年間7%ずつ成長する世界

 こうした成長率が実際問題として何を意味するかについて一瞬立ち止まって考えてみる価値がある。

 年間成長率が7%だと、経済は10年ごとに規模が2倍になる。そして潜在的には、生活水準も同じように向上するかもしれない。

(そのような成長の利益は広く共有されるのか。それは、また別のコラムで取り上げる問題だ)

 そのような経済では、30歳で親になった人たちは、子供が大人になった時に自分よりも8倍豊かになることを期待できる。

 浪費が甚だしい政府を除くすべての政府で、財政問題が消え去る。国家債務の負担が経済成長の白熱によって蒸発するからだ。

 こうした数字には前例がないわけではない。

 中国や日本、韓国といった一握りの経済国は、当時自国より豊かだった社会にキャッチアップしながら、この種の成長が続く長い高度成長期を謳歌した。

 だが、世界で最も豊かな経済国からそのような成長率が出てきたら、新しい現象だ。

 年間20%のペースで成長する経済は、我々の直感からさらに遠ざかる。 そのような成長率では、経済は10年間に3回、規模が2倍になる。

 子供が大人になった時には、親より約500倍も裕福になる。数世紀の経済的進歩が数十年間に凝縮され、数年が数カ月に凝縮される。