山口晃《東京圖 1・0・4輪之段》の完成形を公開

山口晃《東京圖 1・0・4輪之段》 2018-25(平成30-令和7)年 カンヴァス・彩色 山種美術館 撮影:宮島径 ©︎YAMAGUCHI Akira, Courtesy of Mizuma Art Gallery

 それでは、今回が初登場となる「聖地」で見逃せない作品はどれか。注目は山口晃《東京圖 1・0・4輪之段》だ。本作は2019年放送のNHK大河ドラマ『いだてん』のオープニング映像用に制作され、その後、実物をイギリスで初公開。ただしその時は線画の状態で、彩色された完成形としての公開は今回が初めてとなる。

 作品の舞台は皇居を中心にした東京全域で、鳥瞰図の形式を用いてはるか上空から描かれている。画面にはさまざまな時代の風景が混在しており、浅草のあたりには“浅草十二階”の名で親しまれた凌雲閣の建物が。生命体のように絶えず変貌を繰り返す東京。今と昔が交差する本作は、東京の特性がよく表れた、一味違った聖地画と感じる。

海外の聖地にも注目を

竹内栖鳳《城外風薫》1930(昭和5)年 絹本・彩色 山種美術館

 日本画の巨匠たちが描いた「海外の聖地」は、新鮮な気分で鑑賞できる。というのも日本画家が描く日本の風景はいわば“王道”だが、海外の風景画には未知の世界を探求する若々しさがあふれているように思う。

 速水御舟は1930(昭和5)年、イタリア政府が主催したローマ日本美術展覧会の使節として渡欧。展覧会後も現地に滞在し、約半年間にわたってヨーロッパ各地を訪ね歩いたという。シェイクスピア『ロミオとジュリエット』の舞台として知られるイタリア北部の都市ヴェローナの街並みを描いた《ベロナの街》をはじめ、《ナッタ街》《フィレンツェ アルノの河岸の家並》《塔のある風景》といったイタリアでの写生作品や、ギリシャのゼウス神殿を題材にした《オリンピアス神殿遺址》などが並ぶ。

千住博《ピラミッド「遺跡」》1988(昭和63)年 紙本・彩色 山種美術館

 ほかにも、中国・蘇州の水郷をみずみずしい筆致で表した竹内栖鳳《城外風薫》や霧にかすんだ湿気ある空気の表現が見事な平山郁夫《ロンドン霧のタワァ・ブリッジ》、抜けるような青い空が心地いい千住博《ピラミッド「遺跡」》など、海外の聖地鑑賞の楽しみは尽きない。絵画に描かれた彼の地をいつか訪ねてみたい、そんな思いが高まってくる。

特別展「日本画聖地巡礼2025-速水御舟、東山魁夷から山口晃まで-」
会期:開催中~2025年11月30日(日)
会場:山種美術館
開館時間:10:00~17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(11月3日(月・祝)、11月24日(月・振休)は開館)、11月4日(火)、11月25日(火)は休館
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://www.yamatane-museum.jp/