葛飾北斎『北斎漫画』十編 浦上蒼穹堂蔵
(ライター、構成作家:川岸 徹)
90年の生涯で3万点もの作品を手がけた浮代絵師・葛飾北斎。マンガ・アニメの表現の原点ともいわれる北斎は、同時代の画家や後世のアーティストにどのような影響を与えたのか。“北斎のしわざ”に注目する展覧会「HOKUSAI―ぜんぶ、北斎のしわざでした。展」が、京橋・CREATIVE MUSEUM TOKYOで開幕した。
「冨嶽三十六景」と並ぶ代表作『北斎漫画』
日本を代表する浮世絵師・葛飾北斎のアイコンとして真っ先に思い浮かべるのは、『冨嶽三十六景』シリーズの「神奈川沖浪裏」、通称“大波”だろう。2020年には日本国パスポートの基本デザインに用いられ、2024年には新1000円札の図柄に採用。海外でも「The Great Wave」の名で親しまれ、オークションでは億単位の高値が付き、時にはレオナルド・ダ・ヴィンチの名画《モナ・リザ》と並び称されることもある。
葛飾北斎『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』 個人蔵
葛飾北斎『富嶽百景』二編「海上の不二」 浦上蒼穹堂蔵
知名度という点では “大波”に及ばないものの、北斎にはもうひとつ、世界が認める代表作がある。1810年代に、50代の北斎が制作を開始した『北斎漫画』だ。当時の画家はもちろん、現代のアーティストにも影響を与え続けていることから、『冨嶽三十六景』シリーズを超える傑作とする研究者も少なくない。
この『北斎漫画』は絵手本というジャンルに区分される。絵手本とは習画の際に用いられる手本のこと。元々は師から弟子へと肉筆で描き与えられるものであったが、当時の北斎の弟子は全国各地に200人以上。ひとりひとりに肉筆画を与えるわけにもいかず、北斎は版本仕立ての本として出版することを思いついたのだ。
1812(文化9)年の秋、名古屋に逗留していた北斎は、『北斎漫画』の版下絵300図余りを描く。その下図は名古屋の版元・永楽屋東四郎から絵手本として出版された。発売直後から大ベストセラーとなり、北斎は続編を制作。『北斎漫画』は北斎没後の1878年まで、全15編が刊行されている。