トランプ政権による不法移民摘発強化で緊張が高まっている。写真はシカゴ郊外でデモ隊と衝突する当局=9月26日撮影(写真:ロイター/アフロ)
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米国のトランプ大統領が、米国に滞在する外国人のビザ(査証)の発行を制限する政策を進めています。外国人の就労を制限して米国内の雇用を守ったり、不法滞在による治安の悪化を防いだりするのが目的のようです。米国は長年、移民に寛容な国として知られてきました。それだけに、突然のビザ制限に戸惑う外国人も少なくありません。いったい何が起きているのでしょうか。やさしく解説します。

西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス

韓国人労働者を拘束し米国人の雇用確保?

 ことし9月上旬、韓国企業が米南部ジョージア州で建設していた電気自動車(EV)用バッテリー工場に、米移民税関捜査局(ICE)の捜査員が踏み込み、外国人労働者ら475人を逮捕しました。いずれも違法就労の容疑です。

 工場は韓国の現代自動車(ヒョンデ)と電子機器メーカーのLGエナジーソリューションが合同で建設を進めており、主に両社の下請け企業の従業員らが働いていました。逮捕されたうちの300人以上が韓国籍で、日本人3人も含まれています。

 逮捕者の大半は6カ月期限の「B-1ビザ」保有者でした。ICEは今回の大量逮捕について「一連の犯罪捜査の一環」としか説明していませんが、逮捕された労働者らはバスで収容施設に送られ、劣悪な環境で過ごすことを余儀なくされました。

図:フロントラインプレス作成

 事態を重く見た韓国の李在明政権は、米国政府と交渉して逮捕者を釈放させるとともに、チャーター機を米国に派遣し、韓国人労働者らを帰国させました。

 工場は「ジョージア州史上最大のプロジェクト」と言われるほど巨大なもので、地元米国人の間では「政府から多額の補助金を受けているのに、米国人の雇用につながっていない」との不満が出ていたと言います。大量逮捕の背景には、米国人の雇用を守るという政策的意図があったと見られます。