(英エコノミスト誌 2025年5月24日号)

トランプ大統領から目の敵にされているハーバード大学(4月15日撮影、写真:ロイター/アフロ)

誰よりも大きな代償を払うのは米国だ。

 迅速かつ激しい攻撃が行われている。トランプ政権はほんの数カ月間で研究助成金を何万件もキャンセルし、科学者への資金提供を何十億ドルも停止した。

 世界トップレベルのハーバード大学やコロンビア大学でもプロジェクトが唐突に打ち切られた(編集部注:トランプ政権は22日、ハーバード大学の留学生受け入れ資格も停止した)。

 提案されている予算では米国の主要な研究資金提供機関からの助成金が50%削減される。

 米国の科学技術力は世界でも突出しており、以前から優秀な頭脳の持ち主を引き寄せてきた。

 今では、そのトップレベルの人材の間にも不安に駆られて脱出を図る動きが見られる。

 トランプ政権はなぜ、自国の科学界を傷つけているのか。

「DEI根絶」で科学全体が巻き添え

 ドナルド・トランプ大統領の科学分野のアドバイザーであるマイケル・クラツィオス氏が5月19日、その論理を明らかにした。

 それによると、科学には大幅な刷新が求められる。

 非効率的、硬直的になっているうえに、現場の研究者たちは集団思考に囚われてしまっている。DEI(多様性、公正性、包括性)については特にそうだという。

 この説明を聞いて、なるほどと思う読者もいるかもしれない。しかし、実際に起きていることをつぶさに見ていくと、憂慮すべき事態になっていることが分かる。

 科学への攻撃は焦点が定まっておらず、本当の狙いを隠して行われている。研究活動の足かせを解いて自由にするどころか、深刻な打撃を与えている。

 その結果は世界全体にとって悪いものになるが、その代償を最も多く支払うのは、ほかならぬ米国自身になる。

 まず問題なのは、本誌エコノミストが今週号の特集記事で論じているように、攻撃の対象がトランプ政権が主張するほどには絞り込まれていないことだ。

 閣僚たちはDEIの根絶、反ユダヤ主義運動が繰り広げられた大学の処罰、そして政府支出全体の削減を目指しており、科学はその巻き添えを食っている。

 科学者がいわゆる「ウォーク(意識高い系)」な考え方を推し進めているのではないかとの疑念のせいで、助成金を提供する側が「トランス」や「エクイティ(公正)」といった言葉にアレルギー反応を示すようになった。

 その結果として、インクルーシブ(包括的)な教育スキームのみならず、オーソドックスな研究活動も縮小の憂き目に遭っている。

 例えば、がんのリスク因子を人種別に評価するとか、性感染症の罹患率を性別ごとに調べるといった研究への資金まで打ち切られている。