(英エコノミスト誌 2025年5月10日号)

ミレニアル世代やZ世代のために嘆くのはよそう。その哀れみの心は今の50代のためにとっておこう。

「人は現実よりも想像で苦しむことの方が多い」とストア哲学者のセネカは言った。

 実はその時、世代論を語っていたとしてもおかしくない。

 1997~2012年生まれのZ世代は、ソーシャルメディアに子供時代を台無しにされたと話している。

 1981~96年生まれのミレニアル世代は住宅が買えないと嘆いている。

 1946~64年生まれのベビーブーム世代は老後の見通しが不透明だとこぼしている。

 ここで忘れられることが多いのが、1965~80年生まれのX世代だ。

 グーグル検索の結果から推測する限り、X世代に対する世間の関心はミレニアル世代やZ世代、ベビーブーマーたちへのそれの半分に満たない。

 X世代をテーマにしたポッドキャストやミームはほとんど存在しない。

 ダグラス・クープランド氏が1991年に発表したベストセラー小説『ジェネレーションX:加速された文化のための物語たち』のおかげでX世代という呼び名こそ広まったものの、この世代のことを論じた本はほかにはほとんど見当たらない。

 英国では、自分が何世代に属するか知っている人の割合が最も低いのがX世代だ。

想像ではなく現実に苦しむ呪われた世代

 一般の人々が想像する世界にX世代の居場所はないのかもしれないが、セネカの指摘とは異なり、この世代は本当に苦しんでいる。

 微妙な年齢になっていること、そしてこの世代自体が呪われていることがその理由だ。

 コンサルティング会社のイプソスが先日30カ国で行った世論調査によれば、X世代の31%は「あまり幸せではない」または「全く幸せではない」と答えており、ほかのどの世代よりも割合が大きかった。

 また米ダートマス大学のデビッド・ブランチフラワー氏によれば、不幸から不安、絶望に至るあらゆる種類のひどいことは50歳前後にピークを迎えるという。

 この指摘は、「人生のU字型」理論と符合する。

 人は若い時期と年老いた時期に幸福感が高く、中年期には惨めな気持ちになるということだ。

 ベビーブーマーはすでにこの時期を経験済みで、ミレニアル世代も近くその年代にさしかかる。

 U字型が描かれるのは、中年になると慢性疾患が問題になり始めるためでもある。

 また、仕事で成し遂げたいと思っていたことをすべて実現するのは無理だろうと悟り始める。

 そのうえ、X世代は自分の子供と親の両方の世話をしなければならない場合も多い。

 米国では、X世代が18歳以下や65歳以上の人の面倒をみるために使うお金は支出全体の5%を占める一方、ベビーブーマーのそれはわずか2%だ。

 イタリアでは、親と同居している18~34歳の人の割合がここ20年間で61%から68%に高まった。

 スペインの上昇ぶりはそれ以上に劇的だ。そして、この世代の親の多くはX世代だ。