(英エコノミスト誌 2025年5月17日号)

ホワイトハウスで開かれた暗号通貨サミット(3月7日、トランプ大統領の左はスコット・ベッセント財務長官、右はデービッド・サックスAI&暗号担当資産責任者、写真:picture alliance/アフロ)

トランプ一族の投資、友好的な規制当局、選挙運動での派手な支出のおかげだ。

 今年4月の終わり、テキサスの物流会社で約300万ドルの市場時価総額を持つフレイト・テクノロジーズ(Fr8Tech)が一風変わった投資に乗り出した。

 同社は最大で2000万ドルを借り入れ、ドナルド・トランプ大統領が2期目の就任3日前に立ち上げた暗号通貨「$トランプ」コインを購入することを明らかにした。

(トランプ氏はソーシャルメディアに「私の本当に特別なトランプ・コミュニティに参加しよう。さあ、今すぐ$トランプを手に入れよう」と投稿し、購入を促していた)

 $トランプを運営する企業はちょうど、このミームコインの購入額で最上位に位置する投資家たちを5月下旬に大統領との夕食会に招待すると発表したばかりだった。

 Fr8Techのハビエル・セルガス最高経営責任者(CEO)はこのコインの購入について、同社が望んでいる類いの通商政策を「支持する効果的な方法の一つ」になると語った。

2つの出来事が告げたワシントンの革命

 同じ週に、米国から遠く離れたパキスタンの大都市ラホールでは花火が夜空を照らした。

「デジタル資産」業界の振興を目指して同国財務相が今年3月に設立していたパキスタン・クリプト評議会(PCC)がトランプ氏とその一族が所有する企業「ワールド・リバティ・ファイナンシャル(WLF)」と提携したことを祝う花火だった。

 WLFはパキスタンがブロックチェーン・プロダクトを開発し、現実世界の資産をデジタル・トークンに変えることを支援するほか、暗号資産業界全般について助言することを約束した。

 金銭的な条件など提携の詳細は開示されなかった。

 隣国インドのメディアはこの提携を、トランプ氏の歓心を買う取り組みの一環だと解釈した。

 この解釈は2週間後にさらに厄介なものになった。

 インドとパキスタンによる軍事紛争が瞬く間にエスカレートし、トランプ氏が間に入って停戦させる事態になったからだ。

 インド国民の多くは、この停戦はパキスタンにとって不当なほど有利なものだと考えている。

 これら2つの出来事は、ワシントンで革命が起きる兆しだ。

 暗号資産はまさに日の出の勢いだ。大統領と夫人、そしてその子供たちまでもが米国内外で暗号資産を売り込んでいる。

 トランプ氏が指名した規制当局者たちは前任者たちよりも寛大なアプローチを取っている。投資家も続々と集まっている。

 大きな圧力団体が次々に姿を現し、暗号資産を支持する政治家(やその候補者)を支援する一方、反対する政治家を懲らしめている。

 外国政府も含む投資家や業界の応援団は、暗号資産を使えば「コネ」のある人々に接触できることに気づき始めている。

 まだ若い業界が突如、米国の政官界の中心に躍り出た。だが、トランプ一族と近い関係を築いたために、この資産は党派的な大義のようなものにもなりつつある。

 大統領が暗号資産に熱を上げていることは、この業界に差し引きマイナスの影響をもたらすことになるかもしれない。