日本も特別扱いされない可能性
ビザ発給制限など強引な外国人締め出し策は米国社会にさまざまなひずみを生んでいます。
この9月下旬にはテキサス州ダラスで、移民の捜索や送還を担う移民税関捜査局(ICE)の事務所に無差別銃撃があり、収容者1人が死亡する事件がありました。発見された銃弾には「反ICE」の文字が記されていたといいます。
米CNNテレビの報道によると、トランプ政権が送還した外国人の数はことし8月の時点で約20万人に達しました。その政策を執行する中心的存在がICEで、移民のコミュニティーや人権団体などはICE への反感を強めているのです。
一方、出生地主義の見直しは、執行が停止されている州と、そうでない州があり、対応が分かれている状態です。不法滞在の女性が妊娠している場合、生まれてくる子どもはどこの国籍になるのか、不安が尽きません。
米国籍が取得できない場合に、母国の国籍を得られるかどうかは分かりません。国籍がはっきりしない子どもはどこの国に「送還」されるのかという懸念も残ります。
日本も、米国において特別扱いされる保証はありません。
日米の関税合意には80兆円規模の対米投資が盛り込まれ、日本人が米国で仕事をする機会は増えることが予想されます。しかし、ビザの取得が困難だったり、米国内で逮捕の恐れがあったりする状態では、正常なビジネス活動を進めることは困難でしょう。
米国の移民対策は、経済や安全保障の強化を目的とする点で、日本における外国人規制の議論と共通するところがあります。労働力不足の補完と安全保障、そして外国人の人権への配慮を勘案して、あるべき道を探し出すことが肝心です。
西村 卓也(にしむら・たくや)
フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。
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「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。
