交通渋滞をすり抜けられ維持費も安いバイクはホーチミン市民にとって不可欠の「足」。だが、事故や大気汚染、騒音などの弊害も急増しており、政府は2026年から大幅規制に乗り出すという(筆者撮影)
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 今年、「独立80周年」「ベトナム戦争終結50周年」とダブルの節目に沸くベトナム社会主義共和国。トランプ関税による悪影響も懸念されるが、ASEAN(東南アジア諸国連合)屈指の成長センターとして、さらなる国の発展に期待がかかる。ジャーナリストの深川孝行氏が、ベトナム最大の都市・ホーチミン市を訪れ、その実情に迫った。

トランプ関税で景気減速を危ぶむ声も

 2025年9月4~7日の日程で、急成長するベトナム南部のホーチミン市を訪れた。

 中国への過度な依存によるリスクを避けるため、周辺国に生産拠点・調達先をシフトする戦略「チャイナプラスワン」が、日本の経済界でも再熱している。その最有力地となっているのがベトナムだ。

 不透明さを増す中国・習近平体制に加え、アメリカの第2次トランプ政権誕生による米中対立激化が主因で、海外ビジネスの代替先としてベトナム、中でも商都のホーチミンに熱い視線が注がれる。

 多くの日本人にとって、ベトナムは「バインミーとフォーがおいしいASEANの中堅国」とのイメージが強いだろうが、同国の国際的な存在感は近年急速に増している。

 2024年の世界銀行データによれば、面積約32.9万km2、人口約1億100万人で、日本(面積約37.8万km2、人口約1億2300万人)と大差ないボリューム感にまず驚く。

 GDP(国内総生産)は約4800億ドル(約72兆円)で、日本の約4兆ドル(約600兆円)の1割強だが、2024年にフィリピンを抜き、タイ(約5300億ドル/約80兆円)やシンガポール(約5500億ドル/約83兆円)に迫る勢いだ。

 コロナ禍が響いた2020年、2021年などごく一部の例外を除き、GDP成長率は1988年以来、毎年前年比5%増以上をマーク。2024年は7.1%増を達成した。

 チャイナプラスワンを念頭に置いた日本企業のベトナム進出も活発だ。ベトナム市場調査会社のB&Companyによると、ベトナムに進出する日系企業は、2019年に約2800社に達し、コロナ禍で2021年は一旦落ち込むものの、2023年には約3250社に拡大している。

 進出企業の内訳は製造業が多く、中でも自動車・バイク、産業機器、家電、電子部品関連企業が、チャイナプラスワンの受け皿として、製造拠点・部品サプライチェーンの再構築を図る事例が目立つ。トヨタ自動車やホンダ、パナソニック、シャープ、三菱電機などが、ベトナムでの新規進出・規模拡大・ローカル化などを行っている。

 だが、今年トランプ氏はベトナムの対米輸出品に「基本20%、第三国(主として中国)の積み替え品40%」の高い相互関税を宣告したため、高度成長へのマイナス影響が心配される。

 トランプ関税の悪弊で、2025年の経済成長率を同国政府は当初8%と強気に見積もっていたが、その後6.6%に下方修正。IMF(国際通貨基金)も5.4%と予測するなど、景気減速を危ぶむ声も出ている。