浦和レッズL.から日テレV.ベレーザに移籍した塩越柚歩選手。若手主体のベレーザにおいてゲームコントローラーとしての役割が期待される 写真/長田洋平/アフロスポーツ
(歴史ライター:西股 総生)
魅力的なコンテンツではあるが…
今年のWEリーグが8月9日に開幕した。
今季の開幕前には、浦和レッズ・レディースで中盤の要だった塩越柚歩・猶本光の両選手が、昨季リーグ覇者の日テレ・ヴェルディベレーザに揃って移籍するという、大きなニュースが飛び込んできたりした。ベレーザの戦力構成を考えるなら、この移籍は非常に理にかなった補強といえるから、補強が奏功してベレーザが連覇を果たせるのか大いに注目されるところだ。
塩越選手と同じく移籍した猶本光選手。圧倒的展開力をもった天才ボランチ。強烈なミドルシュートも魅力 写真/長田洋平/アフロスポーツ
こうした経緯を考えるなら、日テレV.ベレーザの本拠(味の素フィールド西が丘)で行われた浦和レッズL.との第3節は、大いに注目されるべき一戦だった。にもかかわらず、当日の観客数は3137人にとどまった(当日主催者発表)。
このスタジアムで行われるベレーザの試合としては多い方、という印象は受けたものの、同じ日に行われたJ3のFC岐阜対福島ユナイテッド(岐阜長良川スタジアム)の4588人、鹿児島ユナイテッドFC対長野パルセイロの7447人(鹿児島白波スタジアム)に比べてもやはり寂しい数字といわざるをえない。
WEリーグの集客の弱さはかねてから問題視されているところで、筆者も昨年10月2日掲載の拙稿「サッカー本来の面白さが味わえる「WEリーグ」の魅力、男子サッカーが失ってしまった、球技としての美しさや華麗さ」において、実際に観戦してみるならWEリーグはコンテンツとして充分に魅力的であるにもかかわらず、現状では集客に成功していない、と書いた。
リーグ側の公式発表によれば、昨季(2024-25シーズン)のリーグ全体での年間入場者数は33万7290人で、過去最高を記録したとのことであるが、今季も実際に蓋を開けてみれば、集客が順調とはいえないようだ。J3にすら及ばないというWEリーグの集客問題は、未だ根本的には解決していない、と評さざるをえないだろう。
サッカーの先進地であるヨーロッパでは、すでに女子のプロサッカーリーグは興行として成り立つだけの確たる地位を築いており、男子サッカーと遜色ない集客力を見せるリーグもある。また、女子の日本代表(なでしこジャパン)は世界的にも強豪の一角と見なされている。にもかかわらず、WEリーグが集客で苦戦しているのはなぜなのだろう?
この問題について、興味深い考察を示しているのが、3月10日に「Football Tribe Japan」というサイトに掲載された「史上最多観客動員を記録したWEリーグ、問題点と欧州女子ブーム比較(寺島武志)」という記事である。
すなわち、ヨーロッパのサッカースタジアムは熱狂的だが治安のよくない場所であるために、「サッカーは観に行きたいが、スタジアムは怖いから……」と二の足を踏む人たちが少なくない。女子サッカーの場合は、そうした「怖さ」がないので多くの人が観戦に赴く。対して日本では、Jリーグのスタジアムが清潔・安全で、誰でも安心して観戦できるので、あえてWEリーグに足を運ぶ必要がない、という考察である。
まことに当を得た指摘であろう。Jリーグのスタジアムでは、ごく一部のサポーターが時たま問題を起こすこともあるけれど、普通に観戦にきて怖い思いをすることはまずない。トイレも清潔だし、食べ物(スタグル)も美味しいから、女性お一人様や子供たちだけのグループ、老夫婦といった観客も珍しくない。
では、「Jリーグのスタジアムが安心安全であること」だけが、WEリーグの集客力が弱い理由なのだろうか。筆者はもう一つ、決定的な問題があると考えている。