2023年2月25日、Jリーグ、ガンバ大阪対サガン鳥栖より 写真/西村尚己/アフロスポーツ

(歴史ライター:西股 総生)

●地政学から考えるJリーグの戦略論(前編)

「九州北部のヘソ」

 では、サガン鳥栖(とす)はどうか。このクラブが本拠地を置く佐賀県鳥栖市は人口7万4000ほどで、J1クラブの本拠地としてはもっとも小さな地方都市である。

 ただし、鳥栖という地は、鉄道と道路が東西南北にクロスする交通の要衝で、「九州北部のヘソ」といってよい地政学的位置を占めている。少々不謹慎な例えかもしれないが、もしいまウクライナと同じような戦争が九州で起きたとしたら、鳥栖の攻防戦は間違いなく戦局全体の帰趨を左右するだろう。

サガン鳥栖のチームカラーも鮮やかな駅前スタジアム

 この要衝である鳥栖の駅前にあるのが、サガン鳥栖のホームスタジアムだ。その名も「駅前スタジアム」。当地方に展開する駅前不動産という会社がネーングライツを得たゆえであるが、あまりにも名が体を表していて楽しい。

 交通の要衝に占位する駅前スタジアムは、アクセスが抜群である。鳥栖は、博多から快速電車に乗れば30分ほどの距離だし、福岡空港も鉄道へのアクセスがよいから、首都圏からでも朝、羽田で飛行機に乗れば、午後の試合に余裕で間に合う。いや、日帰り観戦だって可能である。

 試合が土曜日なら、試合の後は近くの居酒屋で一杯飲んで、そのまま駅前のホテルに投宿し、翌日は周辺で観光を楽しむこともできる。大都市や県庁所在地であれば、駅前にサッカー専用スタジアムなど建設できなかっただろう。

 個人的に、このスタジアムで好きなのが売店だ。スタジアムの売店ではビールやハイボールといったアルコール類を売っているものだが、ここの売店には何と! 焼酎の一升瓶が並んでいて、好みの銘柄を選ぶと、コップになみなみと注いでくれる。そいつをチビチビ飲りながら、青空の下でサッカーを観るのは最高だ! 

駅前スタジアムの売店には焼酎の一升瓶が並ぶ。さすが九州!

 駅近のスタジアムとしては、亀岡にある京都サンガのサンガスタジアムも、施設が新しくて魅力的だが、総体的なアクセスという点で鳥栖の駅前スタジアムは捨てがたい。ホームサポーターのみならず、ビジターサポーターすらリピーターになってしまう魅力的なスタジアムは、間違いなくサガン鳥栖の力の源泉だ。

亀岡市にあるサンガスタジアムは最新のスタジアムだけあって、設備が整っている

 小さな地方都市というネガティブ要因を逆手に取り、交通の要衝というメリットを活かす戦略を実現しているのが、サガン鳥栖なのである。