自ら将来を選び取ることが難しい女性皇族の葛藤

 現行制度では、女性皇族は結婚すれば皇籍を離れる。この枠組みは戦後一貫して続いてきたが、社会構造も国民意識も大きく変化した令和の時代において、果たして妥当といえるだろうか。

 皇族数が減少する中、女性皇族の役割はかつてなく重要になっている。それにもかかわらず、将来の立場や役割を定める制度設計は一向に進まず、「期限付き」の身分のまま公務に臨んでいるのが現状だ。

 この現実は、本格的に公務を務められるようになって1年半近くの愛子さまにも、等しくのしかかる。

 天皇皇后両陛下の長女として各地での公務に臨まれ、外国要人を招いた国際親善の場でも落ち着いた振る舞いを見せてきたが、その立場は結婚と同時に大きく変わる可能性がある。

 ご経験を積み、国民との信頼関係を築き上げても、役割を手放さざるを得ない日が来るかもしれない。自ら将来を選び取ることが難しい状況は、若い女性皇族に深い葛藤を抱かせていることだろう。

ブラジルのルラ大統領夫妻との宮中晩さん会に出席された愛子さま(2025年3月25日、写真:共同通信社)

 時事通信の全国世論調査では、「女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持すべき」と回答した人は64.9%、反対は10.7%にとどまった。読売新聞の調査でも71%が皇位継承が将来難しくなることに不安を感じ、55%が「女性皇族が結婚後も皇室に残るべき」と回答している。

 しかし、国会審議は政治的思惑や世論の分裂を理由に停滞し、政府は「先送り」の姿勢を崩さない。国民への説明も十分とは言い難く、現状維持の名の下に女性皇族の将来像は曖昧なままだ。

自民党本部で開かれた「安定的な皇位継承の確保に関する懇談会」(2025年6月11日、写真:共同通信社)

 この間にも現役世代の女性皇族は次々と皇籍を離れ、担い手は減少の一途をたどっている。このままでは近い将来、皇室は人員不足で立ち行かなくなる恐れがある。これは単なる制度疲労ではなく、歴史的な責任放棄に等しい。

 こうした現実の中で、佳子さまは体調不良で一度見送った参拝を後日改めて行われ、訪問報告を欠かさなかった。その姿は、制度に翻弄される立場でありながらも、全力で役目を果たすことで、「静かな抗議」を行っているようにも見える。

 声高に制度改革を求めることはないが、その沈黙は決して無関心ではない。せっかく築いた信頼と公務経験が、結婚の瞬間に断絶してしまうのは、受け入れ難く理不尽だと感じていても不思議ではない。

ブラジルを訪問し、着物姿で外交関係樹立130周年記念式典に出席された佳子さま(2025年6月11日、写真:ロイター=共同通信社)