毎年のように基準を超える線状降水帯が発生している(画像:Japan Meteorological Agency, via Wikimedia Commons)
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 毎年のように発生し、甚大な被害をもたらす「線状降水帯」。この発生予測はまさに発展途上である。もっとも、予測技術が向上することは大切だが、「予測が当たるかどうかではなく、危険をどう捉えるか」が命を守るカギだと坪木和久氏(名古屋大学宇宙地球環境研究所教授)は語る。予測技術の現在地と課題、そして私たちは豪雨災害にどう備えるべきか、坪木氏に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──梅雨の時期や台風接近時に、線状降水帯による集中豪雨とそれに伴う災害が、もはや毎年のように発生しています。「線状降水帯」とは何か、改めて教えてください。

坪木和久氏(以下、坪木):まず理解していただきたいのは、「線状降水帯」には2つの意味がある、という点です。

 一つは気象学的な意味での線状降水帯、もう一つは気象庁が災害リスク発生の基準に基づいて「線状降水帯」と定義するものです(以下、「基準を超える線状降水帯」)。この2つを区別して考える必要があります。

 気象学的に、線状降水帯とは、積乱雲が列をなして連続的に発生している集団を指します。これがある場所に停滞して長時間にわたって強い雨を降らせる状態が、典型的な線状降水帯です。同じように積乱雲が列を成していても、さっと通過していくものは「スコールライン」と呼ばれます。

 気象庁の基準を超える線状降水帯は、「前3時間降水量が100ミリ以上のエリアの面積が500平方キロメートル以上」「降水域が線状に延びていること」「前3時間の積算降水量の最大値が150ミリ以上」「災害の発生リスクが極めて高い」の4つの条件を満たしています。

 これらの条件を満たすと、気象庁は「顕著な大雨に関する気象情報」や予測情報を発信します。

 線状降水帯自体は、日本近海で年間を通じて多数発生しています。その中で、気象庁が特に災害に直結する可能性が高いと判断した基準を超える線状降水帯に限定して、予測や情報提供をしているのが現状です。

 なお、気象学的な線状降水帯の形成については、ある程度の予測が可能になってきていますが、その中から「基準を超える」ものを特定して事前に予測するのは非常に困難です。現在も気象庁をはじめ、多くの研究者たちが予測技術の開発に取り組んでいる課題です。

──基準を超える線状降水帯は、日本の中でも特定の地域に集中して発生するのでしょうか。

坪木:いいえ。基本的に日本のどこでも発生する可能性があります。

 実際、これまで北海道では基準を超える線状降水帯の発生は記録されていませんが、それは過去の話です。今後、地球温暖化が進めば、北海道を含む日本全国で発生リスクが高まると予測されています。

──地球温暖化が進むと、なぜ北海道のような北日本でも基準を超える線状降水帯が発生するようになるのですか。