パレスチナ国家承認の意向を表明した英国のスターマー首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
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 7月24日、フランスのマクロン大統領は9月の国連総会で「パレスチナを国家として承認する」と語った。同29日にはイギリスのスターマー首相が、同30日にはカナダのカーニー首相が同じ方針を発表した。なぜこのタイミングでパレスチナの国家承認が議論になるのか。この問題に詳しい、ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校法学講師のマラク・ベンスラマ・ダブドゥブ氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──フランス、イギリス、カナダと次々と西側諸国がパレスチナの国家承認を宣言し始めました。なぜこうした動きが始まったのでしょうか?

マラク・ベンスラマ・ダブドゥブ氏(以下、ダブドゥブ):パレスチナとイスラエルの問題に関して、それぞれの政府に対する国民の不満が膨れ上がっているという状況が前提にあります。

 国連や世界中の法律の専門家たちが「ガザで行われていることはジェノサイドだ」と声を上げています。国連人権理事会のフランチェスカ・アルバネーゼ特別報告者は、2024年に「ジェノサイドの解剖学」という報告書を国連理事会に提出して詳細を説明しました。アルバネーゼ氏はその後、トランプ政権からアメリカの制裁の対象にされています。

 また、国連世界食糧計画(WFP)はイスラエルが人工的に作り出す飢餓によって、ガザの人々がいかに死に追いやられているかについて説明しています。食料はあるのに、イスラエルがガザへの流入を止めているのです。

 イギリスのスターマー首相は、表向きは親イスラエルと考えられてきた英労働党の党首ですが、パレスチナで起きていることをこのまま放置することは許されないという党員たちの声が大きくなり、対応しないわけにはいかなくなりました。

 一方で、イギリスにとってイスラエルは重要な同盟関係の相手でもあります。労働党の中にも、パレスチナ国家承認のような方法でイスラエルを刺激しないで、外交努力でパレスチナへの攻撃を終息させる努力をすべきだという声もあります。

 こうした議論の中で、スターマー政権はパレスチナの国家承認という方向を選びました。これまでイギリスが取ってきた立場とは異なる方向です。

 2023年10月7日から始まったイスラエルとハマスの衝突前から、植民地支配や民族浄化など、イスラエルがパレスチナをどう扱ってきたのかはずっと問題として議論されてきましたが、和平交渉の道半ばという認識で、イギリスはパレスチナの国家承認は提案してきませんでした。そのイギリスが国家承認を提案するというのは大きな変化です。

──今回のフランス、イギリス、カナダの決断によって、イスラエルを止めることができるとお考えになりますか?