アサガオの中でダンスするカザリショウジョウバエ(写真:石川由希)
ショウジョウバエのオスは、翅(はね)をふるわせて「歌う」。しかも、そのリズムには種ごとに違いがある。そんなハエたちの求愛行動に潜む神経回路と進化のロジックを探り続けるのは、石川由希氏(名古屋大学大学院理学研究科 講師)だ。
ショウジョウバエはどのようにして、種によって微妙に異なるリズムを聞き分けているのか。石川氏を虜にした花の中でダンスを踊るカザリショウジョウバエの魅力とは──。動物の行動と進化をこよなく愛する石川氏に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)
──ハエの研究をしていると聞きました。
石川由希氏(以下:石川):特に、ショウジョウバエ科のハエに着目して研究をしています。
彼らは種によって多様な求愛行動を示します。たとえば、オスがダンスをしたり、プレゼントを贈ったり。私たちの研究室では、特に彼らの「求愛歌」に注目して研究しています。
キイロショウジョウバエをはじめ、100種以上のショウジョウバエが求愛歌を使うことが知られています。これは実際に歌うわけではなく、翅を振動させて音を発する行動です。興味深いのは、種ごとにリズムやパターンがわずかに異なり、メスがその違いを聞き分けて、同種のオスを選んで交尾する点です。
──わずかなリズムの違いを、どのようにして認識しているのでしょうか。
石川:種ごとに神経機構に違いがあるためだということが徐々に明らかになってきています。
私は、キイロショウジョウバエと近縁のオナジショウジョウバエに着目し、両者の聴覚神経回路を構成するJOニューロン群とAMMC-B1ニューロン群を比較しました。
JOニューロン群は聴覚一次ニューロンに相当し、音の情報を最初に受け取ります。その情報は、二次ニューロンであるAMMC-B1ニューロン群に伝えられます。両者の形態や神経伝達物質には大きな違いは見られませんでしたが、AMMC-B1ニューロン群の「リズムに対する反応の強さ」には明確な種間差がありました。
──具体的には、どのような反応の違いがあったのですか。
石川:キイロショウジョウバエでは、リズムが速くなるとAMMC-B1ニューロン群の反応が強くなりますが、25ミリ秒間隔を超えるような速すぎるリズムでは反応が抑制されます。
オナジショウジョウバエでも似たような抑制が見られますが、速すぎるリズムに対してはより強い抑制が見られました。この差が、リズムの聞き分け能力の違いを支えていると考えています。
出所:名古屋大学プレスリリースより
──これは、どういった意味を持つのでしょうか。