
地球上にトンボの祖先が登場したのは約4億年前。トンボは、翅(はね)を持ち変態する昆虫の中でも最も祖先的な昆虫のひとつだと言われる。
トンボの変態のメカニズムを明らかにすることで、昆虫全体に共通する新しい知見が得られるのではないかと語るのは「トンボ博士」こと奥出絃太氏(京都大学大学院農学研究科応用生物科学専攻 特定研究員)だ。独自に飼育環境を整え、最先端の遺伝子解析技術を駆使して切り拓いたトンボ研究の最前線について、奥出氏に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)
──トンボの魅力について、教えてください。
奥出絃太氏(以下、奥出):昆虫界の人気2トップというと、カブトムシとクワガタを思い浮かべる人が多いかもしれません。ただ、私が生まれ育った北海道には、幸か不幸か、カブトムシはほとんど生息しておらず、クワガタともあまり接点のない人生を送ってきました。
そんな北海道で私が夢中になったのがトンボです。特に、北海道では街中の池でも普通に見られる、オオルリボシヤンマという青く美しい眼を持つトンボが大のお気に入りでした。
その色の奥深さや格好良いフォルム、飛翔する速さに心を奪われて、トンボを追いかける少年時代を過ごしました。これが、昆虫好きとしての「トンボの魅力」です。
一方、研究者の目線で語ると、トンボにはまた別の魅力があります。
トンボは、翅を持ち変態する昆虫の中でも、最も祖先的なグループに属すると言われています。変態とは、生物が成長する過程で大きく形態を変えることです。
無翅昆虫(むしこんちゅう)と呼ばれる翅をもたない原始的な昆虫が、まず地球上に登場しました。現在のイシノミやシミの祖先です。約4億年前に、幼虫から成虫になる際に変態し、翅を獲得する昆虫が現れました。これが、トンボやカゲロウの祖先と言われています。
つまり、変態する昆虫の中で最も祖先的であるトンボを研究することは、昆虫の変態の進化メカニズムを明らかにする可能性を秘めているということです。トンボの研究を通して、昆虫全体に共通する新しい知見が得られるのではないかと期待しています。
また、トンボは成虫の体色が種間や種内で非常に多様だという点も、魅力の一つです。成虫になりたてのアカトンボは、実は黄色です。秋が近づき、成熟するにつれて赤色に変化していくことを知っている方は、多くはないでしょう。
──2024年には、トンボに関する研究で日本進化学会研究奨励賞を受賞しました。