性風俗で働く女性(写真:共同通信社)(写真:共同通信社)

 日本で性風俗業に従事する女性は約40万人と推計される。女性たちが性風俗に身を投じる理由はさまざまである。職を失い金が必要になった、友達に誘われて何となく、学費を稼ぐため。それと同様に、彼女たちが性風俗から足を洗う理由も人それぞれだ。

 坂爪真吾氏は、2015年に性風俗で働く女性のための無料生活法律相談事業「風テラス」を設立し、これまで延べ1万人以上の女性を支援してきた。女性たちはいかにして性風俗を卒業したのか、その後どのように生きているのか──。『風俗嬢のその後』(ちくま新書)を上梓した坂爪氏に、話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──本書の第1章では、性風俗の世界から昼の仕事(昼職)に移行した女性の「再び性風俗の世界に戻るかもしれない」「戻りたいと思うことがある」という言葉が紹介されていました。

坂爪真吾氏(以下、坂爪):彼女たちが性風俗に戻りたいと考える理由は、まずはお金の問題です。

 性風俗をはじめとしたいわゆる夜の仕事(夜職)は、昼職に比べて圧倒的に短時間で高収入を得ることができます。昼職で最低賃金に近いバイト代や給与で働き続けるよりも、夜の仕事に戻ったほうが割が良いと考える人は当然いるでしょう。

 加えて、昼職は基本的に月給制ですが、性風俗の仕事は現金日払いです。昼職に移行する場合、最初の給料日までの1カ月はお金が入ってこないため、計画的にお金を使うスキルが求められます。

 夜職から昼職へ移行する際には、ややともすると狂ってしまった金銭感覚を、一般的な感覚に戻すことが必要条件になります。

 勤務形態の違いもまた、彼女たちに「性風俗の世界に戻りたい」と思わせる要因の一つです。

 昼職は、決まった時間に出勤して決まった場所で働き、決まった時間に退勤するという働き方が大半です。組織の中で働くことになるので、一定の対人コミュニケーションスキルも求められます。

 一方で、性風俗の世界は「完全自由出勤」であるところが多く、自分の好きな時間に出勤して、自分の好きな時間に帰ることができます。ホテルなどの密室の中で1対1で行われる仕事なので、組織の中で働くスキルもそれほど求められません。

 完全自由出勤の世界で働く期間が長くなればなるほど、昼間の一般的な仕事の勤務形態にシフトしていくことが難しくなってしまいがちです。

 生活リズムの立て直しや金銭感覚の是正などの観点から、夜職から昼職に移行する際には、一定の訓練や準備期間が必要になると考えています。

──第2章では、大学への進学や海外留学、仕事での独立などの目標を達成し、性風俗を卒業した女性が描かれていました。このような例について坂爪さんは「非常に珍しいケース」と書いていました。当事者に目標を立ててもらうことを意識させるような働きかけをする支援は、性風俗を卒業するために必要だと思いますか。