「誰かのために性風俗に従事する」という背景
坂爪:風俗店を利用する男性客は、女性に対して素人らしさや恋人らしさを求めがちです。女性が玄人の「プロ」であることを売りにする風俗店は、そう多くはありません。
風俗嬢は個人事業主ですが、確定申告をして納税をしている人は決して多くありません。確定申告が必要だということ自体を知らない人も多いと思います。「性風俗は労働ではない」と言い切る当事者もいるほどです。
男性客も、店舗も、女性も、性風俗という仕事に労働者性を求めていません。その一方で、女性が風俗で稼ぐためには、接客や性的なサービスのテクニックの向上などの労働者性が求められる場面もあります。
労働者性を曖昧にすることで、短期的な利益を最大化するということが、性風俗の1つの特徴だと思っています。

また、性風俗に従事する女性の中には、リストカットなどの自傷的な行為に走る人もいます。性風俗で働くこと自体を一種の自傷行為として捉え、それによって金銭を得ている人にとっては、性風俗は「労働と症状の境界線を曖昧にして稼ぐ仕事」とも言えるでしょう。
さらに、性風俗の世界には「誰かのため」に働いている女性もいます。ホストのため、推しのアイドルのため、彼氏のため、子どものため、親のためなど、理由はさまざまです。
「誰かのために性風俗に従事する」という背景には、自分の感情と他人の感情を混同しているなどの問題が見え隠れしています。性風俗の仕事は、肉体的にも精神的にも、自分と他人の境界線を曖昧にしたほうが、圧倒的に稼ぎやすくなります。
自分と他人の境界線が曖昧ならば、場面や相手に応じてキャラクターを使い分けることができます。また、不特定多数の相手と関係を持つことも苦でなくなります。

けれども、自分と他人の感情の境界線が曖昧になるほど人は病みます。
誰かに言われるがまま、求められるがままに脱ぎ、自分の感情と現状を自覚できないまま性風俗の世界に深く踏み込んでいく。そもそも「自分」の範囲や境界線がわからない状態の人に「自分を大事にしよう」と言っても、何を大事にしたらいいのか、わかるはずもありません。
自分と他人の境界が曖昧になった人にとって、自己肯定感を一時的に高めてくれる手段が「金」と「セックス」です。でも、いくら金を稼いでも、不特定多数の相手と身体を重ねても、「自分は何者なのか」「本当は何をしたいのか」という問いの答えを知ることはできません。
──「脱がずに生きていきたい」「性風俗をやめたい」と考えている女性にメッセージをお願いします。