ドイツのメルツ首相と会談したウクライナのゼレンスキー大統領(提供:Ukraine Presidency/ZUMA Press/アフロ)ドイツのメルツ首相と会談したウクライナのゼレンスキー大統領(写真:Ukraine Presidency/ZUMA Press/アフロ)

 5月28日、ウクライナのゼレンスキー大統領とドイツのメルツ首相はベルリンで会談し、ロシア領内を攻撃できる長距離ミサイルを共同で生産していく方針を発表した。6月5日には、ベルギー・ブリュッセルでウクライナを支援する約50カ国の国防相が参加する会議が開催され、イギリスが10万機のドローンをウクライナに提供すると発表した。

 アメリカの支援を頼りにしていられなくなる中で、欧州各国がそれぞれのウクライナ支援の割合を増している。アメリカが抜けた場合、その他の国々の支援でどの程度補えるのか。この問題に詳しい、英バーミンガム大学国際安全保障教授のステファン・ウォルフ氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──ウクライナ支援をめぐるアメリカと欧州の動きに関して、どんなことを感じていますか?

ステファン・ウォルフ氏(以下、ウォルフ):5月27日、トランプ大統領は自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に、「もし私がいなければ、ロシアではすでに多くの深刻な事態が起こっていただろう」と書き込みました。

 ロシアは1945年に作られた領土保全と国家主権の国際規範に反した行為を続け、プーチン大統領は戦時下における犯罪行為で国際刑事裁判所(ICC)から起訴されています。

 ロシアの蛮行を語り始めれればいくらでも事例を挙げることができますが、ロシアをアメリカの大統領が擁護してきたかのように語るのは、本来かなり異常なことです。

 翌日、ドイツのメルツ首相は、ドイツがウクライナに50億ユーロ(約8200億円)の援助をして、ロシア領土内を標的にできる長距離ミサイルをウクライナと共同で生産すると発表しました。

 ウクライナ支援と並行して、ドイツは基地の拡大、兵士のリクルート、兵器開発など自国の防衛産業に対する投資を大幅に拡大しています。

 さらにドイツは、リトアニアにロシアの侵攻に備えて常駐部隊を配備し、5月22日にリトアニアの首都・ヴィリニュスで派兵開始式典が行われました。リトアニアはベラルーシと隣接し、ロシアとも非常に近い距離に位置しています。

 アメリカがロシアを擁護して、ヨーロッパはウクライナ支援を拡大する。ヨーロッパとアメリカの間で分断が生じているという印象があります。これまでの大西洋を横断する関係性を考えると、これは重要な転換点です。

──ドイツの軍備増強は、どのあたりから本格的に始まりましたか?