
ウクライナは、ロシア国内にトラックに隠してFPVドローン(First Person View Drone=操縦者がまるでそれに乗っているかのような視点で操縦できるドローン)を密輸し、それを使い、国内4カ所の飛行場のロシアの重爆撃機41機を破壊した。
これは、想像を超える大戦果であった。
だが、私は最近のロシアの戦い方について、ウクライナ側に大きな不安材料となることがあると感じている。
それは、ロシア軍の戦い方に変化が出てきていることだ。
ウクライナ軍第1線防御部隊へのロシア空軍の滑空弾攻撃数が、この2カ月間で急増しているのである。
ロシア戦闘機による滑空弾攻撃増加は、あくまでもロシア地上軍攻撃を支援して、その進展を加速させようとする狙いであるようにみえる。
そこで、①ロシア軍の地上作戦のこの1年間の進展と戦果、②戦果のための損害は見合うのか、③空爆の滑空弾攻撃の変化、④滑空弾攻撃を急増させている意図、⑤その狙い、これらを踏まえ米欧が今支援すべきことについて考察する。
1.ロシア軍の地上作戦、進展と戦果
ロシア地上軍はこの1年間、主にロシアのクルスク州での反撃とウクライナのドネツク州での攻撃を行ってきた。
ドネツク州では州境界を攻撃目標に攻撃を進めているようにみえる。
ロシア軍は、ウクライナ軍に侵攻されたクルスク州では、一部を除きほとんど奪回した。また、5月下旬からウクライナ北東部スームィ州に対して攻勢に出ている。
この1年間、ロシアが地上軍攻撃で、どれほどの占拠地域を増加させることができたのかは、図1に示した。
北部(ルガンスク州とハルキウ州)の赤丸で囲んだ地域とドネツク州南部の青色で囲んだ地域である。
図1 ロシア地上軍がこの1年間で占拠した地域

赤丸で囲んだ地域の範囲は、ロシア軍が数キロから10キロ前後を占拠し、青色で囲んだ地域は、最大で60キロを超えている。
それらは、これまでロシア軍が占拠していなかったドネツク州の部分の4分の1から3分の1に相当する。ロシアが1年をかけて戦った戦果である。
これまでと同様の戦いを続けていけば、ロシアがドネツク州全域を占拠するには、あと2~3年はかかると予測できる。
この戦果は、十分なのか、不十分なのか、あるいは苦戦を強いられたものなのか。
この答えを出すには、ロシア軍がどれほどの損失を出したのかという点と照らし合わせてみる必要がある。