伐採される熱帯雨林(写真:Photoshot/アフロ)
土とは何か。森の中に足を踏み入れると、そこには土がある。都会でも、植栽や街路樹の下にはわずかに土を見ることができる。土のない月や火星でも将来的には現地の「土」で農業をする計画があるという。では、どこからどこまでを土とすべきなのかと悩み続けるのは、土壌学者の藤井一至氏(福島国際研究教育機構 土壌ホメオスタシス研究ユニット ユニットリーダー)である。
土とは何かという根本的な問いから人類と土のかかわりまで、『土と生命の46億年史 土と進化の謎に迫る』を上梓した藤井氏に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)
ゴリラとのフルーツ争奪戦に敗れた人類
──土と人類の関係について、教えてください。
藤井一至氏(以下、藤井):人類は環境破壊を引き起こし、自らが食料生産を依存する土も劣化させている話はよく耳にするかと思います。でも、僕はこの本を書く中で、もともと人類はすごく土と仲良しなサルだという事実に気付きました。
最古の化石人骨は約700万年前のものです。ゴリラ、そしてチンパンジーと分岐した僕たちの祖先は、もともとはゴリラやチンパンジーと同様、アフリカの熱帯雨林で暮らしていました。乾燥化によって熱帯雨林が縮小すると、ゴリラやチンパンジーとのフルーツ争奪戦に敗れ、木から降りたサルが私たちの祖先の姿です。
ゴリラやチンパンジーは、育てられる子どもの数も人類と比較すれば多くはありません。栄養分の乏しい土から植物が栄養を吸い上げ、実らせるフルーツの量で繁殖が制御されています。
一方で、熱帯雨林を飛び出した人類はフルーツ食から雑食になりました。人類にとって幸運だったのは、西アフリカの熱帯雨林の赤土に比べ、移動した先の東アフリカの草原には比較的肥沃な土が多かったことです。季節を問わず、さまざまな食糧を得られるようになった結果、子孫をどんどん増やせるようになりました。
約700万年前に熱帯雨林を出た人類は、結果的には肥沃な土を求めて繁栄したサルだということができます。約1万年前には人類は農耕を始め、自らの手で土を変えるようになりました。人口が爆発的に増加し、今に至っては食糧難の危機に瀕しています。
農業によって人類は多忙になり、人口が増加したが故に食料問題にも直面するようになった、人類の不幸な歴史が始まった、という捉え方もできるかもしれません。
けれども、僕は人類と土の関係は農耕を始めた前後で大きく変化していないと考えています。人類は熱帯雨林ではなく肥沃な土を選び、それゆえに高い繁殖能力を持つようになったサルだということです。
農業を悪者にするよりも、狩猟採集の時代から現代に至るまで、ずっと「お腹いっぱい食べたい」「子孫をたくさん残したい」と思ってきた自分たちの特徴を受け入れて、土とうまく付き合う方法を探していく必要があると思っています。
──文明の発達という観点では、人類と土にはどのような関係があると思いますか。
