「政治からの独立」のために会長選に立った橋本氏

 JOCは「選手強化」「五輪などの総合国際大会への派遣」「オリンピックムーブメントの推進」という3つの事業を柱に掲げ、モスクワ五輪ボイコットを教訓に「政治からの独立」の立場を貫いてきた。

 しかし、2010年代前半、JOC傘下の競技団体で選手強化のための助成金に不適切処理が行われ、暴力問題などの不祥事も次々と発覚した。国民のスポーツ界への不信を追い風に、国は、選手強化に税金を投入する立場から看過できない事態となった。

「政治からの独立」を謳うJOCが、自らの失態で立場を悪くしたのは間違いない。2019年には、当時の東京五輪パラリンピック大会組織委員会の会長だった森喜朗氏が、個人的な持論としながらも、JOCと日本スポーツ協会を再統合したいという構想を明らかにした。

 独自財源に乏しく、失態も多いJOCだが、スポーツ界の中には「政治からの独立」だけは堅持すべきと根強く訴える声がある。

 こうした中で、政治家である橋本氏が、JOCの独立を守るために、従来の慣例の流れに逆らってまで会長選に立った——というのが、筆者が取材をした関係者の見解だった。

問われる、「五輪の申し子」のJOC会長としての手腕

 橋本氏は2013年、全日本柔道連盟が女子代表の指導陣の暴力問題に端を発した相次ぐ不祥事に、内閣府から当時の安倍晋三首相の名で体制の再構築を求める勧告書が出されたとき、日刊スポーツの記事で「ここまで国にさせた事実を考えてほしい」と執行部の解散を強く求めた発言が掲載されている。

 ある関係者はこのときのことを、「永田町(政界)のさらなるスポーツ界への介入に対する危機感から、橋本氏は『スポーツ界の防波堤』として、あえて厳しい態度を取ったのだと思う」と感謝している。

 橋本氏は、森氏の後任として、東京大会の組織委員会の会長を務めるなど、国際経験が豊富で、夏冬7度の五輪経験を持つ「スポーツ界の顔」でもある。

 だが、危惧される点もある。自民党の裏金問題では2057万円が不記載とされ、党の役職1年間停止の処分を受けた。2014年ソチ五輪では日本代表選手団の団長を務めたが、閉会式後のパーティーでの代表選手への“キス騒動”が一部週刊誌で報じられた。

自民党の裏金問題では、党の役職1年間停止の処分を受けた橋本氏。写真は2019年の自民党大会のときのもの(写真:YUTAKA/アフロ)

 関係者も「橋本氏が政治家であることは変わらない。このことへの批判は受け入れなければならない。ただ、政治家の思惑が絡んでいるとみられた田嶋さんに対抗できる候補者は、ほかにいなかった。背に腹は代えられなかったということだ」と内幕を明かす。

 橋本氏は会見で「開かれた形での選出は非常に良かった。終わればノーサイド」と、今後はJOCの一体感を強調し、将来的な日本国内での五輪招致にも意欲を示す。

 政治との距離をどう保ち、スポーツの価値を再び浸透させることができるか。「五輪の申し子」と呼ばれた橋本氏の手腕が問われる。