日本オリンピック委員会(JOC)の新会長に就任した橋本聖子氏(写真:森田直樹/アフロスポーツ)
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(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)

 日本オリンピック委員会(JOC)は、新たな会長に東京五輪・パラリンピック組織委員会で会長を務めた参院議員で、オリンピアンでもある橋本聖子氏を選出した。

 1980年モスクワ五輪のボイコットを契機とし、1989年に「政治からの独立」を掲げて日本体育協会(現・日本スポーツ協会)から独立して以降、過去5人の会長はいずれも内々に一本化されてきた。

 だが、今回は橋本氏、日本サッカー協会前会長の田嶋幸三氏が自薦で、JOC副会長の三屋裕子氏が他薦で候補者となって、初の投票に持ち込まれた。

 現在のJOCは、東京五輪を巡る汚職・談合事件で世間の「五輪離れ」を加速させ、札幌市への冬季五輪招致も頓挫し、スポンサー数が激減する逆風にさらされる。

 そんな中で投票による会長選出は、事前の一本化という過去の茶番からの脱却に見えるが、そんな単純な構造ではなかった。JOC元理事や政治家も暗躍したとみられる会長選の舞台裏に迫る。

女性初のJOC会長、橋本氏ににじむ悲壮な決意

「(JOCやスポーツ界に注がれる視線が)厳しい状況だからこそ、困難な状況だからこそ、私自身にやらせていただきたいという強い信念のもとで立候補する決意をし、この立場に立っている」

 6月26日のJOC理事会で女性初の会長に就任した橋本氏は力を込めたという。

 東京五輪時に67社あったJOCのスポンサーは十数社まで激減。大会後に発覚した汚職・談合事件で、五輪ブランドは深い傷を負った。国民も企業も離れていく状況に、橋本氏は立候補時の新理事に向けたプレゼンの中で「(スポンサーなどの)企業、ステークホルダーに、五輪パラの意味と価値がどこにあるのかを再認識してもらわなくてはいけない」と悲壮な決意をにじませた。

 就任会見では、現職の国会議員を続けるのかという質問も出た。

 橋本氏は「政治家が(会長を)やっていいのか、様々な意見があったと承知している」とした上で、「国会議員ではあるが、元々はオリンピアン。ムーブメントや強化普及、国際社会での貢献をやりたくて政治家になったので、JOC会長の立場で仕事をやり遂げることも、政治家としての仕事だと思っている」と両立への強い意思を示した。

 朝日新聞は6月27日付の朝刊で、年間100億円を超えるスポーツ庁の「国際競技力向上予算」や選手の強化拠点であるナショナルトレーニングセンターなしには、アマチュアスポーツ界がたちゆかないとし、国(政治)の関与が強まっている現状を挙げる。その上で、橋本氏が政権与党の国会議員である点を強調した。

 だが、ある関係者は「会長選の構図を見誤った報道がたくさんあった。橋本さんは政治家である前に、アスリートだ」と苦々しく語る。

 会長選の舞台裏で何が起きていたのか。