会長選の裏側で過熱していった代理抗争

 関係者によれば、新たな理事候補を選ぶため、7人で構成する「役員候補者選考委員会」が会長にふさわしい人選も含めた選定を進めた。この中で、有力候補に挙がったのが田嶋氏だった。

日本サッカー協会前会長の田嶋幸三氏も、自薦でJOCの会長選に立候補した。写真は2023FIFA女子W杯なでしこジャパンのメンバーを発表したときのもの(写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 だが、今年3月に田嶋氏が会長候補に浮上していることが報じられると、理事候補を選ぶ委員会の役割を逸脱していると異論が出る。このいきさつは、朝日新聞も6月17日付朝刊で報じている。

 朝日新聞は6月27日付記事の中でも、関係者の話として、会長候補の選定への着手は「コンプライアンス違反」としてJOCの元理事らが反発し、橋本氏を推したと書いている。

 筆者は関係者への取材から、この元理事が2019年までJOC会長を務めた竹田恒和氏だと聞いた。実際、毎日新聞は同日付の紙面で、橋本氏を推した元理事として竹田氏と、その周辺とみられていることを書いている。竹田氏らが橋本氏を推したというのは、まさに筆者の取材とも合致する。

 一方で、毎日新聞は、田嶋氏の擁立には、プロサッカー、Jリーグの初代チェアマンでBリーグ創設にも尽力した川淵三郎氏の意向もはたらいたと書き、本人たちよりも、支えている方が熱を帯びた代理抗争の構図が生まれたと指摘する。

田嶋氏擁立の裏側にあったとされる政治家の思惑

 毎日新聞は一方で同日付記事に、「JOC新会長選考を巡る構図」というイメージ図を付け、JOCの元役員らが、役員候補者の選考委員会に対して、「政治家が関与しているのではと疑問視」し、橋本氏の擁立に動いたことを示している。

 具体的な政治家の名前は書かれていないが、筆者も関係者への取材から、スポーツ界に影響力を持つ政治家の関与を示唆する情報を聞いた。

 つまり、今回の会長選の構図としては、政治家である橋本氏を推したのがJOCサイドの人間で、スポーツ界から選出されたようにみえる田嶋氏の擁立には、JOCに対する国の影響力を高めたい政治家の関与が示唆されているという“ねじれ構造”が生まれていたことになる。

 関係者が、橋本氏に政治家、政権与党という枕詞をつけ、国の関与を強める印象を強調した記事を「見誤っている」と指摘したのは、こうした背景からだった。