8回、川越の右翼ポール際に放った打球がファウル判定となり、リプレー検証するも覆らず審判と話す中日の井上一樹監督(左)=5月27日、神宮球場(写真:時事)

(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)

 プロ野球で映像による「リプレー検証」の“不備”が浮き彫りとなった。中日が、5月27日のヤクルト戦で右翼ポール際に放たれた打球を巡り、リプレー検証でファウルの判定が覆らなかったことに対し、日本野球機構(NPB)に抗議文を提出した件だ。

 現行ルールの検証に使われる試合を中継したテレビ局の映像では、打球の行方を明確に判断できなかった。米大リーグ、さらには韓国プロ野球(KBO)でもリプレー検証には、打球の軌道などを特定できる映像分析システム「ホークアイ」を使い、現場の審判ではなく、専門部署で判別する。

 テクノロジーの進化によって、スポーツの根幹をなすジャッジの精度が高まる中、NPBは時代に出遅れ、メジャーはおろか、韓国球界に対しても後塵を拝している。

中日が抗議した問題のシーン

 問題のシーンは1点を追う8回1死1塁で訪れた。中日の川越誠司外野手の右翼ポール際への当たりがファウルと判定されると、井上一樹監督はすぐさまベンチを飛びだして、リクエストを行使した。本塁打なら逆転の状況だった。

 ところが、球場内にも映し出されたリプレー映像では、本塁打かファウルかを明確に判別することはできなかった。審判は結局、ファウルの判定を覆すことなく、試合を再開した。

 中日が簡単に引き下がれないほど、判定が難しい打球だった。

 サンケイスポーツの塚沢健太郎記者は5月30日付のコラムで「右翼ポール際はヤクルトファンばかりだが映像を見ると、ファウルのジェスチャーをしているのが2人ほどいるものの、ほとんどが『やられた』とばかりに静まり返っている。これがファウルなら『あぶねー』という感じで、どよめきが起こるものだ」と振り返っている。

 日本のプロ野球では2010年から、審判が本塁打かどうかを映像で確認するリプレー検証(当時の名称はビデオ判定)を実施。18年からは、チームが判定に疑義を抱いたときにビデオ判定を求める「リクエスト制度」が導入された。審判の目だけでは限界があり、合理的な制度だといえる。

 ただし、判定を覆すには明確な物証が必要になる。今回はポール際の打球を判定しやすいバックネット裏などからとらえた映像が確認できなかったとみられる。つまり、NPBが検証に採用しているテレビ局の中継用映像では限界があり、判断するための材料が乏しいことを露呈した。

 メジャーのリプレー検証はどうなっているか。