各球団が独自に導入済み
Number Webの小西斗真氏の5月30日付記事「中日“幻の逆転弾”の全真相…NPBが受理しなかった抗議書には『有力な物証』が添付されていた『リクエスト問題の本質は審判の技量でなく…』」では、中日が提出した抗議文には、有力な“物証”としてホークアイの画像が添付されていたことが明かされている。
日本のプロ野球でも、ホークアイは24年シーズンから12の本拠地球場で導入済みだ。各球団は複数の高性能カメラが選手の動きを解析し、投手のボールの回転数や変化量、打者の打球速度や角度などを測定した詳細なデータをチーム強化に活用している。
スポーツライターの広尾晃氏は、メディアプラットフォーム「note」の5月31日付記事「本質はNPBの貧弱な体制にある」の中で、MLBやKBOが判定に使っているホークアイは機構側が所有し、各本拠地球場に設置して運用の主導権を持っているのに対し、日本の球場に配備されたホークアイは、12球団が自分たちの予算で購入し、裁量権も持っている」とNPBとの違いを指摘する。
中日スポーツによれば、中日は今回の抗議文の中で、各球場の映像を一括管理して分析するシステムの導入も提案したという。同紙によれば、NPBはリクエストに関する意見書を認めておらず、中日からの抗議文も同様の扱いで受理しなかったものの、「NPB側から川越の打球について『本塁打たる映像』を確認したということと、試合中の審判団のリプレー検証の判断は最善を尽くした結果との見解が示された」とし、リプレー検証の改善を進めるとの返答があったという。
際どい判定を精度の高い映像分析で判別することは、現場で難しい判断を迫られる審判の負担を軽減し、ジャッジに対する誹謗中傷から守ることにもつながるだろう。阪神の本拠地・甲子園球場では、リプレー検証をサポートするために、球団がホームベースからファウルラインの延長線上に専用カメラを設置している。
日刊スポーツの5月30日付の記事は、球場の担当関係者への取材から「テレビ中継でそのシーンが抜かれていなかったら審判の方々も困るはず。打球が速すぎてカメラが追えないケースもあり得る。審判さんが困るケースが少なくなれば、という思いで計画しました」とのコメントを掲載する。
NPBがリプレー検証にホークアイを採用する場合には、MLBやKBOのように全球場の映像を判定するための専門部署を設置するなど、初期投資やランニングコストなどが必要になるだろう。財源はNPBと12球団で協議が必要だろうが、時代に適応したインフラ整備を先送りしたツケが、今回の問題の根本にあったことは間違いないだろう。
テクノロジーの進化によって、より正確なジャッジが可能になった時代についていけないようでは、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を制した日本のプロ野球のブランド力が揺るぎかねない。
田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授
1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。