すぐに釣り竿を身体から遠くに離したのは言うまでもない。そして雨を避けるために脇にあった大木の下で雨宿りをすることも頭をよぎったが、側撃の恐れがあると感じてそれを避けることにした。
激しい雷雨の中で死を覚悟
身を低くして農道に停めている車に逃げ込めば助かるだろうということは理解しているが、とてもとてもそこまで行く状況ではなかった。無我夢中で走って車に向かったところに落雷の直撃があったら即死だ。「群馬の渓流で釣り人が落雷で死亡」という新聞記事も頭をよぎった。

身体を低くして、というか豪雨のなか、原っぱで身を縮ませて腹ばいになりながら壮絶な落雷シーンを目に焼き付けるだけであった。服が濡れることなど考える余裕もなかった。天が気まぐれなら雷に撃たれていたであろう。
わずか100メートルも離れていない場所にドン、ドン、ドンと何十発もの落雷を目撃する経験などそんなに多くはないだろうが、死と直面したこの経験は二度と味わいたくない恐怖しかなかった。
落雷は15分間ぐらいは続いたのかもしれないが腕時計も草むらに放り投げていたので正確な時間は分からない。しかし、自分にとっては一生の長さだったと今思い出してもピンチだったのは間違いない。やっと雷鳴が止んでも動くことは出来ず、真っ暗な空が明るくなってからやっと車に戻ることができた。運転席に腰掛けたときには「助かった、生きていてよかった」としみじみ思ったもので、その感覚は今もしっかりと覚えている。運転席でしばらく時間を潰して雷の心配が無くなったところに、ようやく竿や腕時計などを拾いにいった。
その後も渓流釣りには出かけているが、雷には敏感になった。釣り仲間には雷がいかに怖いのかを喋っているが、相手はウンウンと頷くだけで本当の怖さを知ろうとしないのは表情を見れば明らかである。
今年も雷のシーズンを迎えるが、落雷の被害者が出ないことを祈るばかりだ。