今回の事故は想定するのが難しかったのかもしれない。ただ、現在ではネットで気象庁の「雷ナウキャスト」などによって落雷の危険性をある程度判断できるので、屋外でクラブ活動をする場合にはそれをチェックするのを義務付けるのも一つの方法ではないだろうか。

 気象予報は進歩しており、現在では降雨や落雷についてもピンポイントで予想できる時代となっている。思い出すのは05年7月7日に神奈川県藤沢市で起きた落雷事故である。当時は今ほどの確率での落雷予報は確立されていなかった。藤沢市内の桜小路公園に愛犬の散歩に出かけていた近所に住む母(64)と娘(34)が雨宿りのために大木の下で雨が止むのを待っていたときに落雷に遭って死亡した。元神奈川県知事の妻と娘であり、これは大きく報道されて世間に衝撃を与えた。

 落雷があるときには大きな木の下に避難するのではなく、木から離れて雷が木に落雷した側撃からの被害を避ける、ということは知識としては知っていたものの、土砂降りで逃げる場所が近くに無かったら木の下に避難したくなった気持ちも分かるが、なんともかわいそうな事故だった。

登山と渓流釣りの落雷

 普段散歩で利用している公園などの落雷についてはネットの落雷予想で把握できるから面倒でも散歩の前にそれをチェックする必要があるだろう。

 しかし、高山での登山となると事はそんなに簡単ではない。筆者もかつては登山を趣味にしていたが、登山途中でイナズマが横に走るのを目の当たりにしてから、怖くて止めてしまった。

 日本での落雷の被害の最大なものは67年8月1日に西穂高岳に登山をしていた長野県立松本深志高校の高校2年生たちが学校行事として登山していた時に落雷に遭った悲惨な事故である。2670メートルの独標に登った生徒たちが下山しようとしていた際に雷鳴を聞き、その直後に事故が発生した。その後の調査によると46人がこの場で下山しようとして密集していたところに落雷が起き、11人が死亡し、13人が負傷したとされている。

 この事故を受けて学校側は恒例となっていた登山実習を中止している。そして逃げ場のない登山道を選んだことが大きな事故に繋がったとしてもっと簡単に登れる山を選択すべきだったとも指摘されている。独標を降りるためには鎖場を使って降りなければならず、そうなると密集することになり、落雷の被害が拡大する恐れがあることも指摘されている。

 高山の気象は目まぐるしく変わりやすく、退避できる山小屋が近くにない場合も少なくない。そうなると斜面のハイマツの茂みに身体を隠し、貴金属類を身体から離してザック類も身から離して避難しなければならない。避難といってもハイマツの茂みに潜り込んで運を天に任すことになるだけ。雷の前では人間は「生かされている」だけの無力な存在だ。

 登山を止めて渓流釣りにハマった筆者だが、やはり雷は天敵である。秋田県と岩手県の県境の秋田側の渓流を釣ることが少なくなかったが、ある時、車止めに車を停めてしばらく歩いていくと雷の音がしてそれからバケツをひっくり返すような豪雨となった。それと共に耳をつんざくような轟音がそこかしこに響き渡った。肝を冷やすような雷雨である。

 この渓流ではそれが珍しいことではなったが、雷の音を感じると岩の窪みに身を入れて雷が過ぎ去るのをひたすら待つようにしていた。

 車で渓流釣りの場所を探していると車のAMラジオに雷の雑音が入ることが少なくない。こうやって雑音を聴けば注意する気持ちになるが、車から降りて渓流を釣り上がっていくと雷が近づいてくるのに気が付かない場合もあるのは事実である。