小泉八雲は妖怪研究者ではなく民俗学者だったという(写真:Newscom/アフロ)
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 NHKの連続テレビ小説で取り上げられ、あらためて注目を集める小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)。日本の妖怪や怪談に魅せられた外国人という印象の強い八雲だが、その本質とは何なのか。世界各地を渡り歩いてきた彼はなぜ日本に骨をうずめることになったのか。『八雲と屍体 ゾンビから固有信仰へ』(太田出版)を上梓した大塚英志氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──来日前に米オハイオ州シンシナティの地方紙で新聞記者をしていた八雲は、死体の描写で名を馳せたと書かれています。

大塚英志氏(以下、大塚):八雲は高等教育を十分に受けることなく、あてもないままアメリカに流れ着いた移民です。実際、ホームレス状態でシンシナティの印刷工場の親方に拾われました。

 この親方は八雲に活版印刷の植字の仕事に精を出すように諭すのですが、八雲は印刷工ではなく物書きになりたいという情熱を強めていきます。そして、地元のマイナー誌に記事を掲載してもらいながら、地方紙に記事を持ち込み、それが編集長に気に入られ定期的に寄稿するようになりました。

 新聞記者としての彼はあらゆるテーマを扱い、同時に、他の新聞記者がこなさないようなテーマを扱いました。彼はシンシナティの裏通りを書いたのです。

 スモーキーマウンテンのようなゴミ捨て場があり、墓地があり、墓を掘ったり荒らしたり。そこで生きる人々の職業の呼び名を一つひとつ挙げていけば、すべて差別用語になってしまうような、そういう仕事で生きていかざるを得ない人たちが住んでいた一角がありました。そうしたコミュニティで培った人脈は、他の新聞記者の人脈とまるで違いました。

 なぜそれが可能だったかというと、八雲がマイノリティだからです。朝ドラは八雲を美形の白人が演じていますが、実際にはギリシャ人の母とイギリス人の父の間に生まれた八雲は、西欧基準だと「東洋系」です。

 周辺の人たちの証言によれば、肌は白人に比べれば浅黒で、小柄で150cmちょっとしかありません。しかも、八雲の片目は不自由でした。そんな彼が南部の白人たちからどんな目で見られていたか。八雲の外見を怪物扱いした証言もあります。

 だからこそ彼は自分のことを「グール」と呼びました。シンシティの最底辺を這いずり回る「グール」が彼の自己像です。

「グール」である八雲はシンシナティのアンダーグラウンドに足を踏み入れ、遺体を転売する怪しげな検視官とも仲良くなりながら、そういう人たちを介して検死の情報などを入手していました。

──八雲は非常にリアルに死体などを描写したと書かれています。