バイデン前大統領の「がん隠蔽責任追及」で混迷する民主党
かくして、相互関税による大混乱からウクライナ戦争やガザ問題の混迷まで、いまやトランプ大統領は自分の利益や評判、MAGA勢力に褒められる成果しか考えていない。そして、深い考えもなしに手に触れるものは、すべて壊れてしまうような惨状になっている。
わずか4カ月の段階で、トランプ氏の意見を真正面から受け止めるのは疲れるだけだと多くのアメリカ人も国際社会の人々も考え始めるようになった。
ニューヨーク・タイムズ紙が行った最近の世論調査でも、回答者の3分の2がトランプ氏の2期目を「混沌としている」と答え、59%が「怖い」と回答している。そして、54%の人がトランプ氏が大統領の職務についていることに反対している。トランプ氏に一票を投じるべきではなかったと考える米国人の割合は増えるばかりだ。
このまま操縦不能なトランプ政権が続けば、遠くない将来に地面に激突して国際社会に被害が広がるだろう。いや、すでに「レームダック化」(政権の残りが少ないことで政治が回らなくなること)が見え始めているとも言えそうだ。
それでもトランプ氏がツイているのは、米民主党側が党ぐるみで「バイデン前大統領の前立腺がん」を隠していた懸念が出ていることだ。バイデン氏が在任中に認知能力の低下が指摘されたのは、実は治療に使うホルモン療法の後遺症であった可能性が新たに浮上しており、この事実をバイデン家、民主党指導部が知っていたのではないかとの疑惑が浮上したのである。
「誰が何を知っていたか」が焦点になり、民主党内に責任論が渦巻く混迷状態に陥っており、上層部が一掃されて新たな人々が浮上しない限り、未来が見通せない状況になっている。

こうした中、冒頭のウクライナ戦争を巡っては6月1日にウクライナ側がロシアの中心部深くにドローンを送り込み、複数のロシア空軍基地を一斉攻撃する「蜘蛛の巣作戦」と呼ばれる特殊軍事作戦を実施した。ロシア戦略爆撃機の34%を破壊する大きな勝利を得たが、この特殊作戦の実施について特筆すべきは、ウクライナのゼレンスキー大統領が、事前にトランプ大統領には一言も明かさないまま作戦を実行したことだ。
この作戦は、国際社会の面前でプーチン大統領の顔に泥を塗った格好になったが、同時にトランプ大統領の顔もつぶしたと言えるだろう。ウクライナを負ける運命にある貧しい小国扱いして、プーチン大統領の下僕に成り下がったままなら、重要な秘密は明かせないとウクライナから面と向かって宣言されたも同然だからだ。
このウクライナの軍事的快挙を受けて、ロシアとウクライナの間で行われた2日の直接会談は、2時間遅延して始まり、わずか1時間で終わった。今回も停戦へ向けた具体的な進展は見られなかった。

トランプ大統領は、最近の関税戦争で、中国に続いて欧州連合(EU)にも態度を軟化させ、英フィナンシャル・タイムズ紙の論説委員から「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつも腰砕け)」という言葉を送られて激怒した。
トランプ2.0政権が常に自滅するようなTACO型行動を繰り返す悪影響で、米国民の嫌トランプ気分が高まり、来年の中間選挙で共和党が上下両院を取り落とせば、現政権と国民の乖離が大きくなっていくと考えられる。その最悪の事態が起きた時に、冷静さを失ったトランプ大統領がどう動くかが懸念される。
難飛行を続けるアメリカは一体どこへ向かおうとしているのだろうか。
【松本 方哉/まつもと・まさや】
ジャーナリスト。1956年、東京都生まれ。上智大学卒業後、1980年フジテレビに入社。報道局記者として首相官邸や防衛庁担当、ワシントン特派員などを務める。湾岸戦争、米同時多発テロ、アフガン戦争、イラク戦争などでは情報デスク、解説委員を務めた。2003年、報道番組「ニュースJAPAN」のメインキャスターに就任。専門は日米関係、米国政治と米国外交、国際安全保障問題。妻の介護体験を機に、医療・介護問題にも取り組む。日本外国特派員協会会員、日本メディア学会会員、白百合女子大学講師。著書に『突然、妻が倒れたら』(新潮文庫)「トランプVS.ハリス アメリカ大統領選の知られざる内幕」(幻冬舎新書)がある。