初めからロシアへの制裁など「やる気なし」

 そもそも過去の米国大統領であれば、直ちにホワイトハウスで国家安全保障会議を開催し、国務省、国防総省、CIA(中央情報局)に対して事態の把握と警戒の強化を呼びかけただろう。

 また、米国連大使に命じて、国連の場での緊急の安全保障理事会の開催を呼びかけ、民主主義を旗印に掲げるアメリカとして同盟国と一致団結し、ウクライナへの残虐な軍事侵略を止めようとしないプーチン氏とロシア政府に対して非難決議の一本でも取りまとめるために全力を尽くしたことであろう。

 少なくとも過去40年余りで言えば、共和党のレーガン元大統領から民主党のバイデン前大統領までの歴代米国大統領は民主主義を守り、権威主義の独裁者を許さないとの視点に立ち、それが矜持でもあったはずだ。

 他方、トランプ大統領が、プーチン大統領を「おかしくなった」と主張したのは、祝日のゴルフを終えてワシントンへ戻る途上、同行記者団に捕まったから答えたような気の抜けた場であった。

記者団にプーチン大統領への不満をぶちまけたトランプ氏だが…(写真:Pool/ABACA/共同通信イメージズ)

 誰もが考えたように、ワシントンへ戻っても、やはり国家安全保障会議が緊急開催される気配などまったくなかった。

 そもそも、国家安全保障の担当補佐官だったマイク・ウォルツ氏は1カ月前に国連大使に更迭されており、はたまたホワイトハウス内のNSC(国家安全保障会議)も「トランプ大統領に楯突くディープステートの官僚がいる」として300人規模の大組織から50人以下の地味な組織に強制解体する動きの途上にある。これまでの「大統領に諸政策を提言する集団」から「大統領の決めたことを実行するのが役割のグループ」に、規模も役割も大幅縮小する動きの真っただ中なのだ。

マイク・ウォルツ氏(写真:新華社/共同通信イメージズ)

 また、トランプ大統領はウクライナに対して、ロシア軍から身を守る高性能の武器を緊急供与したり、大規模人道支援を発表したりすることもなかった。記者団に「何らかの制裁を検討する」とは述べたものの、欧州諸国の対ロシア追加制裁に加わるのは否定的なままで、発言の翌日には「プーチン氏の様子を2週間ほど見守る」と発言はさらにトーンダウンした。要はやる気など皆無なのだ。

 プーチン氏におもねる姿勢は変わっておらず、「プーチンの得になること、有利になること以外は何もしない路線」を国際社会の多くの人々はよく分かっていたので、トランプ氏が一時的に騒いでもしらけた目で見るだけだったのだ。一部の米民主党議員が揶揄するような“腰抜けトランプ”の面目躍如であった。