政権を離脱するマスク氏にホワイトハウスの鍵を贈るトランプ大統領(5月30日、写真:ロイター/アフロ)

控訴裁も政府機関大量解雇政策を一時留保

 鳴り物入りで始まった億万長者、イーロン・マスク氏率いる「連邦政府効率化省」(DOGE)の連邦予算削減、省庁部局統廃合は130日の期限切れで店じまいした。

 ドナルド・トランプ米大統領はその成果を称え、保守派論客は「政府効率化の良いスタートだ、今後議会がさらに大ナタを振るえ」(ジョシュ・ハマー氏)と評価している。

Contributor: DOGE was a good start. Trump needs to push further for real fiscal change - Los Angeles Times

 だが当初、連邦政府予算の2兆ドルを実現すると大言壮語したにしては、現時点での削減額は1750億ドル。

 2024会計年度予算・6兆7500億ドルのわずか2.59%。「すずめの涙」に過ぎない。

「マスク氏が去った後、解体された役所に残されたのは瓦礫の山」(ワシントン・ポストのジョナサン・ケープハート氏)とリベラル派の論客は手厳しい。

PBS News Hour | Brooks and Capehart on Musk's impact on the U.S. government | Season 2025 | PBS

 省庁統廃合にしてもUSAID(United States Agency for International Development=アメリカ合衆国国際開発庁)や教育省などの省庁部門の廃止、26万人か全連邦職員230万人の12%の大量解雇・レイオフを決めたものの、連邦地裁に次いで控訴裁は一時留保判決を下している。

Elon Musk leaving Trump administration, capping turbulent tenure | Reuters

 マスク氏の言いなりになったトランプ政権にとっては出鼻をくじかれた格好だ。

 マスク氏の削減改革に、世論は厳しい目を向けており、世論調査の好感度は下降線をたどり、反感度は急増している。

     1月21日 5月30日
好感度  41.3%  39.8%
反感度  46.5%  54.8%

Elon Musk: Favorability Ratings & Polls | Silver Bulletin

USAID予算削除で東アフリカで30万人が死亡

 教育省やUSAIDの統廃合で連邦政府の職員28万人が問答無用で解雇され、予算削減によって米国の開発途上国に対する人道支援、特にエイズやHIV予防支援はストップ。

 そのあおりを受けてアフリカで30万人が死亡するといった米専門家の推定が公表されるなど、マスク氏への風当たりが強くなったからだ

 人道支援問題の権威、ボストン大学のブルック・ニコルズ准教授は、膨大なデータを使って、USAIDの予算が削られれば現在東アフリカ諸国に提供されているHIV予防の抗レトロウイルス薬などが停止され、30万人(その大半は子供)が死亡すると推定する報告書を公表した。

 米各メディアがこれを一斉に報道した。

Opinion | Elon Musk’s Legacy Is Disease, Starvation and Death - The New York Times

Brooke Nichols | SPH (bu.edu)

 米下院外交委員会の公聴会ではマルコ・ルビオ国務長官が厳しい追及を受けた。

 ルビオ氏は「それはあくまでも推定であり、事実ではない」と反論。言葉に窮して「中国は人道支援に貢献などしていない。だからといって人が死ぬとでもいうのか」と食い下がる場面もあった。

Rubio’s claim that it’s ‘a lie’ that people have died from foreign-aid cuts - The Washington Post

「米国第一主義」を貫くとは言え、人道支援は米国外交の重要な柱。米国がグローバルパワーとして尊敬されている重要な要因の一つだ

 現に、人道支援では米国は年間(2023年)950億ドルを拠出し、欧州連合(EU、211億ドル)、ドイツ(208億ドル)、日本(68億ドル)を大きく引き離してきた。

軍事力では米国に肉薄する中国は、こと人道支援では31億ドルと大国としては目立って少ない)

Humanitarian aid by country worldwide 2023| Statista

 マスク氏の改革の支持者の中には、USAIDの杜撰な運営が①グアテマラの性別移行サポートの「ジェンター肯定医療」への200万ドル支援、②イラクの幼児向けLGBTQ支援機関への2000万ドル支援、などに使われていた具体的な事実を見つけだした点を評価する者もいる。

 またUSAIDの職員1万人のうち、3分の2は海外勤務、「開発途上国で王侯貴族のような生活をしてきたものもいる」(マスク氏周辺)との指摘に拍手する保守派も少なくない。

 USAIDは廃止され、数百人のみを国務省に統合するという米国の人道支援態勢が今後どうなるのか、全く不透明だ。