カニエ・ウェスト氏との確執
ビッグ・マシーンを獲得したのは、スクーター・ブラウンという人物だ。この名前にピンとこなくても、かつてジャスティン・ビーバー氏やアリアナ・グランデ氏などのマネージメントをしてきたと言えば、音楽業界での影響力がわかるだろう。
そして、これらのアーティストの中に、テイラーさんとの確執が度々取り沙汰されたラッパーのカニエ・ウェスト氏がいた。
2009年のMTVビデオ・ミュージック・アワーズにおいて、テイラーさんは最優秀女性アーティストビデオ賞を初受賞している。当時まだ19歳だったテイラーさんが受賞の喜びを壇上で語っていたところ、突然ウェスト氏が乱入してマイクを奪い「ビヨンセのビデオが史上最高だ!」などと意味不明の言葉を吐き捨て、喜びの場を台無しにした。
ウェスト氏は、どういう訳かこの後も執拗にテイラーさん攻撃を続けている。2016年には自身の楽曲「Famous」動画において、裸体のテイラーさんを思わせる蝋人形を使った。テイラーさんはこれを「リベンジ・ポルノ」だと憤っている。

テイラーさんの主張するところによれば、ブラウン氏はウェスト氏共々彼女に対する執拗ないじめに加担してきた人物であり、その上あろうことか、彼女が最も大切にしてきた楽曲の原盤権まで奪い去り、それで巨額の利益を得ようとしたということになる。
しかし、これが大人の世界であり音楽業界というものなのだと泣き寝入りをしなかったのが「テイラー・スウィフト」の真骨頂である。
テイラーさんは過去の恋愛や政治問題など、人生の個人的な出来事に関する思いを優れた音楽作品として昇華してきた。彼女はこの騒動後、原盤権に関する一連の悔しさを音楽に反映したと言われている。だが彼女はその上、何と過去の作品をすべて再録音するという画期的な対策を講じたのである。
専門家によれば、米国の著作権法では二つの著作権が存在する。一つは楽曲そのものに対する著作権で、作曲家や作詞家、あるいはその代理がこれを有する。もう一つは録音された「マスター」つまり原盤権であり、こちらはレーベルが管理するのが常だとされる。契約ごとに異なるというが、テイラーさんは楽曲の著作権を有していた。このため、初期のすべての楽曲を録音し直すという離れ技が可能となった。
これまでに初期の4つのアルバムが再録音されているが、アルバムと楽曲全てのタイトルの後に「テイラーズ・ヴァージョン(テイラー版)」と明記されている。過去作品との違いを明確にするためだ。こちらの作品が購入されたり再生されたりすることで、先のレーベルに帰属していた元の楽曲の価値を下げることに繋げられる。