「テイラーズ・ヴァージョン」で反撃
しかし、再録だけでは効果は期待できない。テイラーさんの作戦は、彼女に賛同して「テイラーズ・ヴァージョン」のみをかけると約束した全米各地のラジオ局や、何より「スウィフティーズ」と呼ばれる熱烈なファンの存在無しには成功しなかったかもしれない。数多くのスウィフティーズが、ブラウン氏が原盤権を所有していたオリジナルをボイコットしたとされる。
原盤権は2020年、ブラウン氏からロサンゼルスの投資会社に売却されたが、テイラーさんはこの会社が、彼女が今回権利を取り戻せるよう申し出をしてくれた初めての企業であった上に「正直で公平で、敬意を持って接してくれた」と先の手紙に記している。
米ローリングストーン誌はテイラーさんが、誰もが勝利を予測していなかった音楽業界という「ドラゴン」との戦いを見事に制したと、その功績を称えている。
同誌はまた、スウィフティーズの歓喜の声も伝えている。「彼女がこの道のりで示した正直さに感化された」「盗まれたヴァージョンは聞かなかった。(テイラーを)搾取する人物に金が渡ることが辛かった」「(ブラウン氏が)もう利益を得られないのが本当に嬉しい」「涙がとまらない。混乱と痛みをすべて見守り、彼女を支援してきた」などの言葉が並ぶ。
ある人は、こう述べている。「このことは彼女の粘り強さを証明するものであり、自分の声が聞き入れられなかったり、過小評価されていると感じたりしたことがある人にとって、大きなインスピレーションとなるだろう」
元の文で「粘り強さ」と訳した英単語は「Persistence」だが、「諦めない心」としても良いだろう。実際、数年前彼女はこう発言している。「人はしばしば、私が自分の主張を証明するためにどれほどの不便を自分に強いられるかを過小評価している」。
テイラーさんのファン層はミレ二アル世代が多いと言われているが、この年代は非正規雇用など、親世代よりも不安定な経済環境にあると指摘される。彼らが職場などで経験した不条理をテイラーさんの体験と重ね合わせ、自身の信条を曲げない彼女の姿勢に共感できることが、熱狂的な人気の源であるかもしれない。