後任に取り沙汰される人物とは
しかし、マスク氏が今後DOGEの職を退いたからといって、DOGE自体がなくなるわけではない。米サイトのデイリー・ビーストは「マスク氏の手下」は今後も連邦政府機関に居座り続け、人々の生活に必須のサービスや福祉を停止させるために「チェーンソーを稼働させ続ける」とした。
また、マスク氏からDOGEを受け継ぐのは、中絶や生殖に関する権利、LGBTや移民、人種的平等に反対する保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」による政策構想「プロジェクト2025」を主導した行政管理予算局のラッセル・ボート長官が有力視される。ガーディアン紙は、ボート氏がキリスト教ナショナリスト的思想を信奉し、マスク氏よりもイデオロギーに突き動かされる傾向にあるとしている。
これまでにDOGEが行ってきた削減による弊害もなくなる訳ではない。例えば米CNNは先月中旬、2万人以上いた職員の3割ほどを失った連邦緊急事態管理庁(FEMA)では、今月から始まるハリケーンの季節に向け準備ができていない状況だと伝えた。ガーディアン紙の報道でもFEMAなどの削減により、1月に起きた大規模森林火災の被害者救済や、今夏予測される観測史上最悪の熱波に向けた対応が困難になると見込まれている。
マスク氏自身の政治への関わりが失敗したとしても、富豪である同氏の生活が脅かされることはまずないだろう。DOGEにおける無謀な削減の数々により生命まで脅かされかねない人々について、マスク氏が思い至ることはあるのだろうか。
楠 佳那子(くすのき・かなこ)
フリー・テレビディレクター。東京出身、旧西ベルリン育ち。いまだに東西国境検問所「チェックポイント・チャーリー」での車両検査の記憶が残る。国際基督教大学在学中より米CNN東京支局でのインターンを経て、テレビ制作の現場に携わる。国際映像通信社・英WTN、米ABCニュース東京支局員、英国放送協会・BBC東京支局プロデューサーなどを経て、英シェフィールド大学・大学院新聞ジャーナリズム学科修了後の2006年からテレビ東京・ロンドン支局ディレクター兼レポーターとして、主に「ワールドビジネスサテライト」の企画を欧州地域などで担当。2013年からフリーに。