「1兆ドル削減」にほど遠い成果

 昨秋の大統領選に大金を注ぎ、トランプ氏の見事な返り咲きに貢献したマスク氏だが、その後の経緯は本人にとって芳しかったとは言えない。連邦政府の支出を1兆ドル削減すると豪語していたが、在任中、実際に削減できたのは5月頭までに1600億ドルに留まっていたことを認めた。

 英フィナンシャル・タイムズ紙は5月末の記事で、その時点でDOGEが主張していた1750億ドルの削減の多くが、同紙による独自調査では検証不可能だったと指摘している。

イベントでチェーンソーを振り回すマスク氏(写真:ZUMA Press/アフロ)

 マスク氏は本業であるEV大手・テスラなどの事業そっちのけで、米国以外でも政治にのめり込んだ。今年初めは独政党「ドイツのための選択肢(AfD)」や、英国人の反イスラム活動家などの極右に異様な肩入れをしてきた。

「偉大なイノベーター」「革命児」など、ビジネス面で時代の寵児ともてはやされてきたマスク氏は昨今、金で政治を買い、好き放題に米連邦政府を破壊する異端者として忌避される存在にも捉えられていた。

 マスク氏による「金に物を言わせたやりたい放題」に人々が突きつけた拒否反応は、今年2月ごろから欧米各地などで相次いだテスラ車の放火やディーラー襲撃という感情的な行動のみならず、テスラの急激な業績悪化という数値で明確に可視化されている。

 4月には1月から3月までの営業利益が前年同期比で7割減ったと伝えられた。また欧州での4月の販売台数は前年同月比で半減している。

 米国のマーケティング専門家は、ビジネスマンでありながら連邦政府削減の任に就いたマスク氏の決断は「史上最大級のブランド破壊」であったとまで断じている。

 マーケット大学が発表した最近の世論調査ではDOGEへの不支持が6割近くに上り、またマスク氏自身に対する不支持も同程度であった。