4月以降、急速に薄れたマスク氏の存在感

 米ポリティコが5月19日「トランプ政権下においてマスク氏の存在感が薄くなった」という証明に用いたグラフが興味深い。大統領就任以来、トランプ氏が週ごとに、SNSでマスク氏について投稿した平均回数を表したものだ。

 これによると、トランプ氏が大統領就任式から約1カ月後の2月17日には週10回以上呟いていたマスク氏の名前が(5月19日の時点で)4月以降皆無だったという。また、トランプ氏だけではなくホワイトハウスの公式アカウントなども、マスク氏に関する投稿をほぼ停止したとされている。

 トランプ・マスクの「ブロマンス」が実際は破綻したかもしれないきっかけは、4月1日の出来事に起因するとされる。同日、米ウィスコンシン州の最高裁判事選で、マスク氏が昨秋の大統領選同様、多額を投じて支援した保守派候補が大敗し、リベラル派の判事が勝利するという「失態」が起きた。複数のメディアが選挙結果をナポレオンの敗北に重ね、このことがマスク氏にとっての「ワーテルロー」だったと報じている。

 マスク氏と旧知の仲であるという民主党下院議員は英ガーディアン紙の取材に対し、トランプ氏はある人物の支持率が下がればビジネスライクに切り捨てる傾向があるとした。数カ月でマスク氏が退任したことも、想定の範囲内だったとしている。

 来年中間選挙を控える米国では、共和党においては国民に不人気のマスク氏の存在と距離を置きたがり、一方民主党では、そのマスク氏と共和党を結びつけて攻撃材料にできるメリットがあると見ることもできる。

 退任表明後、マスク氏についてMSNBCの番組に出演した元民主党下院議員の指摘は手厳しい。マスク氏は「嫌われ者で自惚れた、未熟で傲慢な人物」とした上で、何よりも同氏が民主主義を理解していなかったと切り捨てた。成功したビジネスマンの中には、ビジネス同様政治も手がけられると勘違いする者もあり、マスク氏がその典型であると糾弾した。

 そもそもマスク氏が連邦政府の人員削減に乗り出したのは、自身のビジネスを利するためだと当初から指摘されてきた。2月の米ニューヨーク・タイムズ紙記事によれば、当時すでにマスク氏所有の6企業に対して行われてきた32件以上の訴訟や苦情などに関する調査が、連邦政府解体の過程で影響を受けたとされる。調査を行なっていた高官やキャリア職員がトランプ氏により解雇され、主要規制当局者らが共和党寄りとなったこともマスク氏に有利に働いたとされる。