キャッシュフローベースでは日本は純債務国に近い?

 過去には機関投資家や外貨準備を通じた海外への証券投資が支配的であったが、2011年以降は企業による直接投資まで勢いを得るようになった。結果として日本企業の海外内部留保残高は積み上がるばかりである(図表⑤)。

【図表⑤】

 このような企業動向を反映して世界最大と言われる対外純資産「残高」は増勢を保っているが、それは企業部門を中心として「戻らぬ円」の割合が増えていることの裏返しでもある。

 近年認知されてきたように、経常収支については「統計上でこそ黒字だが、CFでは断続的な赤字」という事実が指摘されており、これが円安長期化の底流として指摘されている現状がある。その意味で円安もまた、日本経済が抱える問題の「原因」ではなく「結果」と表現するのが妥当である。

 もちろん、対外純資産国の方が対外純債務国よりも救いはある。しかし、それは対外資産に関し、還流させるだけの妙案か勝算があって初めて言えることだ。対外資産が半永久的に回帰しないことを前提にしてしまえば、CFベースでは純債務国に近いような通貨売りに直面する場面が出てきても不思議ではない。

 いまだに「構造的な円安を疑った方が良い」という言説に対し、「成熟した債権国としての地位が保たれており、構造的円安論は行き過ぎ」という反駁はある。だが、110円付近から始まった円安は一時160円を突破し、断続的な日銀利上げを挟んでも140円台にある。構造的な議論を避けられるような状況とは言えまい。

 符号上は「成熟した債権国」でも、その実態(≒CF)が「債権取り崩し国」に近いからこそ円安が長引いているという側面を考える必要はないのか。