輸出で稼いできた日本だが、貿易黒字の中身は変質している(写真:AP/アフロ)輸出で稼いできた日本だが、貿易黒字の中身は変質している(写真:AP/アフロ)

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

3位までの転落も視野に入る

 5月27日、財務省から2024年末時点の「本邦対外資産負債残高」が公表された。円相場分析にあたって、需給要因を重視する筆者にとっては重要な統計であり、昨年の本コラムでも「『33年連続・世界最大の対外純資産国』なのに貧しく感じるのはなぜか?『戻らぬ円』が示す残念な現実」と題して、定点観測している。

 今回も同様に、基本情報を整理しておきたいと思う。

 既報の通りだが、2024年末時点の日本の対外純資産残高は533兆500億円と6年連続で過去最大を更新したものの、ドイツの569兆6512億円に追い抜かれ、34年ぶりに「世界最大の対外純資産国」のステータスを喪失した(図表①)。

【図表①】

 例年以上に多くの照会を頂戴しているため、筆者なりの所感を示しておきたい。

 資産・負債の別に見ると、対外資産残高は前年比+11.4%の1659兆22億円、対外負債残高は同+10.7%の1125兆9720億円だった。資産の増加幅が相対的に大きく純資産自体は大きく押し上げられているが、ドイツはそれ以上に大きく伸びたという構図である。

 林芳正官房長官は閣議後会見で本件について問われ、日本が2位になったことに関し、日本の対外純資産が着実に増加していることも踏まえ、順位変動から「日本の立ち位置等が大きく変わったと捉えるようなものではない」と述べている。

 これは全くその通りである。日本が失速してドイツに追い抜かれたという話ではなく、あくまで両者の「伸びの差」ゆえに生じた構図であり、順位自体は些末な話だ。

 一義的には経常黒字の累積である対外純資産は、当然、経常黒字の多寡でその残高が規定される。図表②に示すように、2011年頃を境として日本の経常黒字はドイツのそれに大きく劣後するようになった。

【図表②】

 対外純資産残高で言えば、2020年前後から肉薄されるようになっており、文字通り、逆転は「時間の問題」であった。

 なお、同じ理屈で「世界最大の経常黒字国」である中国からも日本は猛追されており、世界第3位の対外純資産国へ順位を落とすこともおおむね既定路線と見受けられる。

 もっとも、日本の対外純資産の「増え方」についてはもっと注目されても良い。