証券投資から企業買収に変わった対外純資産

 繰り返しになるが、順位の変動自体に意味はない。思考の順序としては経常黒字が原因、対外純資産が結果であり、結果の変動に大騒ぎしても本質は見えない。

 フロー(経常収支)の構造が変われば、その蓄積であるストック(対外純資産)の構造も変わるのは当然だ。この部分は過去の本欄で繰り返し論じている点だが、日本の対外純資産で争点とすべきは「残高」ではなく「構造」である。

 2011年以降、日本から海外への対外直接投資が増加する中、対外純資産の構造もそれに応じた変化を経験してきた。

 それまで対外純資産と言えば、米国債を筆頭とする対外証券投資が主体だったが、2014年頃から両者の構成比率は逆転し、2024年末時点で直接投資比率は56.0%と過去最高を更新している(図表③)。

【図表③】

 過去の本欄でも執拗に述べているように、有価証券であればリスク許容度の低下とともに売却し、円貨に戻すといういわゆる「リスクオフの円買い」が想定されるが、日本企業が経営判断の末に買収した海外企業を安易に売却することは考えにくい。

 近年の円安傾向や最近の長期金利急騰を踏まえ、今回の2位転落を結び付けるような報道や解説は自然と出やすいと思われるが、500兆円を優に上回る対外純資産「残高」と円安や債券安(金利上昇)を直接結びつけるのは難しい。

 しかし、直接投資比率が60%に肉薄する「構造」は円が国内回帰する経路が細っていることを意味していそうであり、円安とは無関係ではないように思える。