対外純資産により「時間稼ぎ」は可能
もちろん、対外純資産が潤沢にあるうちは「まだ間に合う」という考え方も可能だ。目下、超長期債市場が晒されているストレスに対し、野放図な拡張財政路線を修正しようという思惑は今後強まるだろう。ただ、それは遅々たるペースでしか進まないため、その間に円売りや債券売りに晒される懸念は残る。
その際、外貨準備を含めた対外純資産が潤沢にあるうちは、為替介入や民間部門の外貨建て資産売却を通じてある程度の時間稼ぎは可能であろう。繰り返し論じてきたように、「世界最大の対外純資産国」というステータスを失ったこと自体、本質的な悲観を孕むものではない。
とはいえ、国債発行計画の修正という異例の動きも取りざたされる中、「対外純資産国だから円や日本国債の価値は安泰」といった浅薄な楽観論も見直した方が良いのも確かだ。しつこいようだが、対外純資産「残高」は確かに潤沢だが、「構造」上、日本経済に還元される部分は限られているということは知っておくべき事実である。
その意味で今回の2位転落は過度に悲観する必要こそないものの、日本全体として、円や日本国債を取り巻く環境を今一度考える良い契機にとすべきだ。
※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2025年5月29日時点の分析です
唐鎌大輔(からかま・だいすけ)
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。