米財務省は半期に一度の為替政策報告書を公表した。写真は、議会下院の公聴会に出席するベッセント財務長官(写真:ロイター/アフロ)米財務省は半期に一度の為替政策報告書を公表した。写真は、議会下院の公聴会に出席するベッセント財務長官(写真:ロイター/アフロ)
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(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

 6月5日、米財務省は半期に一度の為替政策報告書を公表した。「為替操作国」と認定された国はなかったものの、「監視リスト」対象国は下表に示す9カ国となり、アイルランドやスイスが新たに加えられている(図表①)。

【図表①】

 台湾やスイスは、①対米貿易黒字、②経常収支黒字、③為替介入という3条件のすべてに抵触するが、総合判断として「為替操作国」認定は見送りという評価だった。

 一方、中国は対米貿易黒字の1条件しか抵触していないが、今後「為替操作国」として認定される可能性が明記された。現行の巨大な黒字を踏まえれば、為替介入情報が著しく不透明であるとの問題意識が示されたためだ。

 多くの人々はうすうす感じている事実だろうが、トランプ政権下における為替政策報告書の意味はこれまでの政権のそれとは異なる。

 為替政策報告書は本来、その分析を通じて「為替操作国」に認定された場合、二国間交渉を経て通貨政策や貿易慣行の見直しを迫られたり、そこで合意に達することができなければ関税が引き上げられたり、輸出入の制限措置が取られたりすることが想定されるものだ。

 つまり、対米貿易において関税や非関税障壁を用いた制裁が予想されるからこそ「為替操作国」認定やその前段階としての「監視リスト」認定が注目されてきたのである。

 ところが、為替政策報告書の判断を待たずとも、トランプ政権ではこうした所作が日常茶飯事となっている。その意味で、報告書の重要性は明らかに落ちていると言わざるを得ない。何を今さらというわけだ。

 事実、今回示された中国に対する「為替操作国認定」予告は本来、一大事と受け止められても不思議ではないはずだが、報告書公表と同時に行われたトランプ大統領と習近平国家主席の電話会談において、レアアース取引などについて歩み寄りが見られたことの方が大きな材料として受け止められ、市場には安堵感が広がっている。

 為替政策報告書自体に意味がないとは言わないが、あくまでトランプ政権の主張を強化するための補助ツールのような位置づけだろう。

 それでも、為替政策報告書の裏側にあるトランプ政権の意図を探ろうと読み解くと、今回の報告書には、日本に対する記述で気になる部分があった。