対内直接投資の成功例と言われるTSMC熊本工場(写真:共同通信社)

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

対内直接投資目標の引き上げ

 これまで「円安を活かすカード」として再三、対内直接投資促進の重要性を議論してきた。昨年末の本コラム「企業による巨額M&Aで進む円売りドル買い、過去最高ペースで進む対外直接投資が映し出す未来」では、依然として日本から海外への対外直接投資が増える一方、海外から日本への対内直接投資が振るわない現状を確認した。

 この点、6月2日、政府・与党が公表した「対日直接投資促進プログラム2025」では対内直接投資残高目標の引き上げが明記されるなど、筆者としては大変注目している。残高目標の引き上げは「骨太の方針」にも反映されている。

 おさらいをしておくと、従前の目標は岸田政権時代の2022年6月に「骨太の方針」に掲げられた「2030年までに100兆円」だった。今回は「成長戦略の一環として、従前以上に強力に対日直接投資の拡大に取り組むこととし<中略>対日直接投資残高について、2030年に120兆円、2030年代前半のできるだけ早期に150兆円とすることを目指す」と明記された。残高目標が2割以上引き上げられることになる。

 国内市場の縮小が既定路線となる中、「円安を活かすカード」でもある対内直接投資促進は、昨年3~7月にかけて行われた財務省の有識者会議「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」でも1つの結論として提示された論点であった。

 また既報の通り、今年4月には自民党の麻生太郎最高顧問ら有志議員が「対日投資拡大議員連盟」を設立したばかりでもある。当然、今回の目標引き上げと連動した動きと思われる。

 ちなみに、筆者は対日投資拡大議員連盟の発足後、有識者として同議連に出席し、プレゼンの機会を頂戴している。今回の公表文書を見る限り、プレゼンで強調した内容が相応に反映されているようにも見受けられるため、改めて筆者の基本認識を示したい。