アイルランド型を避けるにはどうする?

 しかし、日本の場合、研究開発・物流・製造などの分野に関し、地域ごとに特徴を分けた引き込みを企図する「地域分散型」が期待されるところであり、この点でアイルランド問題を回避できると筆者は考えている。

 類似の指摘は「対日直接投資促進プログラム2025」でも見られる。

「具体的な取組(5本柱・32 施策)」として1番最初に「(1)新規投資・二次投資の促進」が示され、「地域への波及効果が大きい工場等を誘致し、関連する産業・企業を集積させるため、投資の予見性を高めつつ、設備投資や周辺インフラの整備に対する支援等を行う」と宣言されている。これはまさに筆者が「地域分散型」として強調するコンセプトに近いものだ。

 もちろん、重点分野が定まったとしても、その後に問われているのは「そこに資金を誘導するための道」をどのように舗装するかである。

 今回公表された「対日直接投資促進プログラム2025」でも目標達成に際して「即効薬・特効薬」はなく、特定の課題を解決すれば、直ちに結果が出るものではないと強調されている。あくまで「投資する側」である外国企業等のニーズを踏まえ、関係府省庁が一体となって関連施策を総動員することが求められる。

 後述するように、今回の方針を見る限り、「投資する側」のニーズを捉えようとする姿勢は確認できる。

 筆者が議連プレゼンで最も強調したことは、日本がもう「投資する側」ではなく「投資される側」になっている自覚を持ち、政官財のトップセールを軸として案件を誘引すべきという点であった。

 現状を踏まえると、正しい例とは言えないかもしれないが、メルケル政権時代のドイツが媚中外交と言われながらひたすら中国における投資案件を獲得したことが独中貿易の拡大につながり、それが少なくともメルケル政権16年間における経済の隆盛につながったことは事実である(16年で12回の訪中が報じられている)。

 だからと言って中国やロシアにベットし続けた戦略が政治的に正しかったかどうかは別の話だが、「トップセールスを通じた案件獲得」という意味では学ぶ意味はあるだろう。

 既に、1人当たり名目GDPで韓国や台湾に抜かれている以上、日本はアジアで突出した存在ではなくなっている(図表④)。ちなみに、2012年頃の台湾と同じ水準が、今のマレーシアである。あと10年後に日本とマレーシアの立ち位置は果たしてどうなっているだろうか。その後にタイやインドネシアも着々と追ってきている。

【図表④】